短編
□トラップ発動
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「好きな人いる?」と、何気なく聞いた。
「デュエルだな」
まごうことなき十代の言葉。
「人ですらないってどういうことなの?」
「俺に言われてもな」
目の前の万丈目に不満をぶつける。レッド寮の食堂には、あたしたちしかいない。そうなったら必然的に万丈目に八つ当たりするしかないもの。
「あたしの女としての価値はカードもとい無機物以下ですか」
「そうだ」
肯定すんなよ、生きる希望がなくなるじゃない。
「ヘタレのくせに生意気よ!男なら明日香を押し倒すくらいしなさいよ!」
「なっ!できるか!破廉恥な貴様と一緒にするな!」
失礼な。まあ、十代と同じ墓に入りたいとか、できちゃったかも結婚したいとは思ってるけど!
「口に出すのはやめろ」
「ごめん」
うんざりする万丈目に、鼻をほじりながら適当に謝る。夢見たっていいじゃない。
「……これでも積極的にアピールしてるんだけどねっ」
春になったら、ふきのとうみたいに芽生えればいいのに。十代からあたしへの恋心。
「相手は十代だ。生温い手は通用しない」
「分かってるわよ」
万丈目が言うと妙に説得力があるのは何で?それにしても、あんたも苦労してんのよね。同じ片思い仲間を舐めるように見つめる。
「見るな」
「視界の先にあんたがいただけよ」
自意識過剰なオトメンはひとまず無視。これが十代だったらなあ。ああ、デュエル中のあの内股がたまんない!ダメージ受けたら生まれたてのバンビみたいになるのがまた可愛い!
「Are you all right?名前」
「大丈夫よ、ジャム」
茫洋たる妄想の海に溺れていたらジムがいた。噛んでごめんね。
「珍しい組み合わせだな。何をトークしてたんだ?」
あたしはジムよりカレンが気になって仕方ない。今日も可憐ね。この間マスカラ塗ったこと怒ってる?
「……ちょっと、な」
万丈目はどこか照れくさそう。言えないよね。
ましてや好きな人のガードがクレイマン並に固いだなんて。ため息をつくとジムが苦笑する。
「いつか名前が報われる時がくるさ」
「だといいけど」
あえて言及を避けるジムは大人っていうか、いい奴だなあ。……もう少し頑張ってみようかな。うん。
「無茶なのは百も承知!あたしは絶対諦めない!だから、あんたもふんばりなさいよ?」
「言われるまでもない」
あたしたちを見てジムは微笑む。そのまなざしは、わが子の公園デビューを見守る母のようだ。は、恥ずかしい!
羞恥心から転げ回っていると、十代が来た。まさかあたしに会いに来たとか?
「十代!」
「ごめん、名前!今日ヨハンと約束してたんだ。デュエルはまた今度な!」
用件を言うや否や愛しの彼は帰って行った。え?何この展開。おい、笑うな万丈目!
「すっかり忘れてたわ。敵は近くにいるってことをね」
「エネミー?」
最大のライバル。それは――
「……ヨハン・アンデルセン!あたしの十代にベタベタして!」
「いや、お前のじゃないだろ。頭、大丈夫か?」
「ヨハンのとこに行ってくる!」
待ってろアンデルセン!電波対決なら負けないわよ!勿論デュエルでもね!
「名前はinterestingだな!」
「手遅れなだけだろ」
猛スピードで走って行ったあたしに、ジムと万丈目の会話が耳に届く筈がなかった。