短編

□俺たちもいるぞ!
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重い。それが名前の率直な感想である。
名前は、昼食のドローパンと睨み合っていた。

「この重さ絶対怪しいって。何か嫌なんだけど」

「食べないのか?せっかく買ったのにもったいないぜ」

「選んだのはヨハンでしょ」

妙な質量を誇るドローパンを名前はおそるおそる半分に割った。

「すげぇ。ドローパンの中にドローパンが入ってるぜ!」

「うわぁ」

忌憚なく述べれば微妙以外の何物でもない。名前の脳裏に入れ子細工の人形が浮かんだ。

「ヨハンに変なのが当たりますように」

「やめろよ縁起でもない。まあ見てろって」

ヨハンはドローパンに勢いよくかぶりつく。しかし、中身はなかった。

「……これがデュエルアカデミアの洗礼」

「ただの具なしパンだから」

肩を落とすヨハンを哀れむ名前。

「空気を入れて膨らませば少しは幸せになれるかもしれない」

「惨めになるだけよ」

名前は、ため息をもらす。落ち込むヨハンを見かねて自身のパンを分け与えようとした。だが

「ちょっと!もう食べたの?」

「腹減ってたし。意外とうまかった」

影も形もなかった。名前は呆れながらも残りの分を頬張る。

「ねえ、ヨハン。ドローパンって色んな味があるのよ?ちなみに留学生は全て当てなきゃいけないのよ」

「それは困るな」

淡々と返すヨハン。名前が嘘をついてるのは明白だ。

「いいじゃない。ヨハンに帰る所なんてないし」

「誤解を招くようなこと言うなよ。名前?」

「……ドローパン全部口に入れるまで帰っちゃ駄目だからね」

ヨハンの袖を掴み蚊の泣くような声で訴える名前。その姿にヨハンの口元が綻びる。

「なら、全種類引き当てればいいってことか」

「ヨハンの意地悪……」

名前はヨハンがいつかアークティックに戻ることを寂しく思っていたのだ。
ヨハンもそのことが分かっていた。

「ドローパンを買いに行く時は名前も一緒だからな。それもきっといい思い出になるぜ」

別れは必ず訪れる。けれど、共に過ごした日々は決して消えないのだ。

「やだ。ずっとヨハンの隣にいたい。少なくともアカデミアにいる間は」

「名前」

「ヨハン」



「なあ、食わないのか?翔、剣山」

訝る十代。翔と剣山はげんなりしていた。

「あれを見ながらじゃきついッス」

「アニキは流石だドン」

彼らの手には、哀愁漂うドローパンが残されていた。
 

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