短編
□強制誘導
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名前は十代を見つけた。意中の人物ともあって足取りは次第に早くなる。
隣にいるヨハンには、目もくれなかった。
「十代、デュエルしよ?それで私が勝ったらデートして!」
名前は十代に抱きつきながら言った。期待のまなざしを向ける彼女に、十代は苦笑いする。
「悪い、名前。今日は翔たちと約束があるんだ」
「じゃあ、明日は?」
「明日はヨハンとデュエルするんだ。ごめんな」
名前はすねながら、「十代、最近つれないっ」と愚痴をこぼした。
ヨハンはため息をつく。今まで静観していたが、十代から名前を引き剥がした。彼女と目線を合わせて頭を撫でた。
「ほら、十代が困ってるだろ?いい子だから聞きわけようぜ」
「こ、子ども扱いしないでよっ!」
名前は声を荒げる。名前がヨハンに刺々しい態度なのは、今に始まったことではない。ヨハンの振る舞いが原因でもあった。
あとは単純に『やきもち』だ。彼女からしてみれば、十代を取られたと感じるのかもしれない。
突然名前の体が浮き上がる。ヨハンが名前の両脇に手を入れて持ち上げたのだ。
「名前って軽いなー」
「何すんのよ!」
名前はじたばたと暴れる。ヨハンは「動くとパンツ見えるぜ」と言って、からかう。
「十代、助けて!」
助けを求めるが十代はいなかった。翔たちと談笑しているようだ。声が届かず、名前はしょんぼりする。
「名前、俺とデュエルしようぜ?」
「……やだ。何でヨハンなんかと」
「だったら」
ヨハンは名前を横抱きにした。名前はぎょっとして「降ろして!」と訴える。だが、抵抗も無意味であった。
ヨハンは十代に「名前は借りてくぜ」と言って、レッド寮を後にした。
「ちょっと。どこに行くの」
「俺の部屋」
「ど、どういうつもり?自分の部屋に女の子を連れ込むなんて!」
名前はわなわなと震える。ヨハンは思わず噴き出してしまった。
「……何笑ってんのよ!」
「だって、名前が可愛いかったから」
名前は頬を染めた。ヨハンに翻弄される自身が情けなくなったのだ。
「で、さっき何考えてたんだ?」
おおよその見当はついているだろう。しかし、ヨハンは揺さぶりをかけた。名前の反応を楽しむためだ。
当の名前は口ごもっている。言うに言えないのである。
「名前は、人には言えないことを考えてたのか?」
「私そんなつもりじゃ……!」
名前は涙目になっていた。ヨハンの意地の悪い仕打ちが積み重なったからだ。
驚いたのか、ヨハンは慌てて名前を地面に降ろした。
「悪かったよ。泣くなって」
「別に、泣いてないわ」
ふてくされる名前。解放されたことで、内心安堵するが悟られまいと平静を装う。そんな名前を横目にヨハンは、こう漏らす
「俺もガキだな。好きな子を泣かせるなんて」
「えっ……」
名前は耳を疑った。ヨハンがとんでもないことを言ったからだ。「ヨハン。今、何て」と、名前はおそるおそる尋ねた。
ヨハンは微笑を浮かべて名前に近づく。そして、唇を奪った。
「忘れちまった」
ヨハンに答える気などさらさらなかった。