短編
□太陽に溺れた光
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翔と剣山は不安だった。
「アニキ、起きてるッスか?」
「朝早くにすまないザウルス」
早朝にもかかわらず、二人は十代の部屋を訪れた。彼が心配だからだ。
昨日、十代は名前に「デュエルしろ。負けたら光の結社に入れ」と言われたのだ。理不尽な要求だが、十代は二つ返事で引き受けた。
「翔、剣山か。何だよこんな時間に」
「ごめん、アニキ。気になっちゃってさ。大丈夫だった?」
「結局、勝ったドン?」
デュエルは真夜中に行われたため、勝敗が分からずじまいだ。
「もちろん勝ったぜ!それより名前が寝てるから起こさないでやってくれ」
「え、名前って」
翔はベッドを見やる。眠っている名前が目に入った。彼の表情は自然とこわばる。
「な、何で彼女がここにいるドン?」
「名前がせがむから、連れてきた」
剣山は顔色を失う。おそらく翔と考えてることは一緒だ。
「あの、アニキ。何で半裸なの?いつもジャージ着てるのに」
「暑くなっちまって。まあ、あれだけ激しければ汗もかくか」
十代が何を言いたいか大体想像できてしまった。ぴくりとも動かない名前を見て確信する翔、剣山。二人は無言でレッド寮を離れた。
「……アニキが本当の意味でアニキになったザウルス」
「まだ二期なのに、アニキが大人に……」
二人の心境は複雑だった。
「遊城十代」
「起きたのか?名前」
名前は、だんまりを決めこむ。むくれる彼女に十代は苦笑いした。
「遊城十代。私ともう一回デュエルしなさい」
「結構しつこいな。あんた」
十代はあくびをした。負けたことに納得できない名前を一晩中相手していたのだ。
「デュエルしてもいいけど――」
そう言いかけて十代は、名前を組み敷いた。
「今度俺が勝ったら、この制服脱いでもらうぜ」
十代は突拍子もないことを言い出す。理解できるはずもなく、名前の頬は赤く染まっていた。
「冗談じゃない、何言ってんのよ変態!」
「そういう意味じゃねえよ。ただ、光の結社から抜けて欲しいだけだぜ?」
くつくつと笑う十代。名前は、ばかにされてるようで屈辱だった。紛らわしい言いかたは、やめて欲しいとも思ったのだろう。
「どうしてそんなこと言うの?貴方に関係ないじゃない」
「普通、好きな子には変な組織から抜けて欲しいだろ」
「はあ?」
いぶかしむ名前であるが、十代は本気だ。
「からかうのはやめて」
「前から可愛いと思ってたんだ。負けて悔しがる名前を見てますます好きになった」
名前は眉をしかめる。「悪趣味だ」と毒づきたくもなった。
「それより、どきなさいよ」
「デュエルの前に一眠りしようぜ。添い寝してやるから」
「ふざけないでっ、誰が貴方なんかと!」
名前は十代の胸板を何度も押すが、びくともしない。十代には必死な名前が、おかしくてしかたなかった。強気な言葉とは裏腹に彼女の瞳は恐怖をはらんでいたのだから。
「や、やめて。お願い」
十代が顔を近づけるたびに、か細い声で訴える名前。
「勝つんだろ?俺に」
十代は捕らえた獲物を前に舌なめずりをした。