短編
□奇石を手にした奇跡
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ヨハンから、宝玉獣と呼ばれるカードを見せてもらった。
「よくできてるね、ヨハン」
「本物だよ」
それらは、ヨーロッパの大会でペガサス会長から貰ったらしい。何と世界に七つしかないとのこと。あとはエースモンスターが一体いると聞いた。
「それで俺、目覚めたんだ」
「近寄らないで」
「まだ何も言ってねえよ。とにかく俺は彼らと出会って――」
ヨハンは意気揚々と語り始めた。輝くモスグリーンの瞳は宝石に負けず劣らず綺麗だ。見惚れたなんて口がさけても言えないけど。
「で、こいつら喋ることもできるんだぜ!凄いだろっ」
「凄いけど私には精霊が見えないからなぁ」
ヨハンは昔から精霊が見えるみたいで羨ましい。私もデュエリストの端くれであるし憧れてしまう。
「え、見えない?それは名前の心が汚れてるからだぜ」
「汚れてません真っ白です。クリアマインドだ、この野郎」
「今、俺の肩にのっかってんだけど見えないのか?」
私は「見えないよ」と伝える。するとヨハンは一枚のカードを差し出した。
「アンバーマンモス?」
これがヨハンの肩に乗っているのか。普通に怖い。
「ヨハンは雑技団でも入るの?」
「あ、ルビーと間違えた」
再びヨハンから手渡された物に目を向ける。そこには愛くるしい小動物がいた。
「可愛いだろ!」
「うん。首の角度とか」
素直に誉めるのは癪だ。それにしてもエーフィに似てる。
「初めて会った時もこうやって俺の肩に……」
「出会い頭に体を許した結果、今の関係が構築されたのね。ふぅ」
「嫉妬か?名前」
「フリル退場」
ヨハンは出て行った。部屋には私しかいない筈だが、妙な気配を感じる。
「何も本当に出て行かなくても。ていうか、一人にしないで」
「ただいま名前」
「おかえりヨハン。どこ行ってたの?」
「トイレ」
彼の返答に「えっ」と声をあげた。そんな真っ昼間から……。
「まさか宝玉獣で、ぬい」
「え、冤罪だ!」
ヨハンは「用を足してきただけだっ」と言った。ずっと我慢してたから限界マックスウォリアーだったとか。早く行けよ。
「そういえばデッキはどうするの?宝玉獣って結構特殊だし、ちゃんと考えなきゃ駄目なんじゃない?」
「何だそんなことか。これからは宝玉獣主体のデッキでいくつもりだ。入れるモンスターも七体だけだぜ」
「手札事故になるわよ」
本気で言ってるのか。いくら何でも無謀すぎる。
「そんなもん俺たちの絆で蹴散らしてやるさ」
「でも、一体でも禁止カードになったら終わりじゃない」
「それじゃ名指しのいじめだろ!持ってんの俺だけだし、そんなことにはならないって……多分」
ヨハンは涙ぐむ。しまいには、いじけだすし面倒くさい。私はため息をつく。そして、彼を元気づけるべく行動に移した。
「とりあえずデュエルする?」
「ああ、受けてたつぜ!」
ヨハンはやっぱり単純なデュエル馬鹿だ。その純真さに『彼ら』も惹かれたのかもしれない。
「負けないからな名前」
私は一人の少年に無限の可能性を見た。