短編

□レッド寮を燃やそうか
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十代は変わった。異世界から帰ってきてから。彼は笑わなくなった。おまけに引きこもりだ。

「どうしようかな」

私はレッド寮の前にいた。

「よぉ名前。何してるんだ?」

ヨハンだ。十代に用があるのだろうか。

「十代に会いたいけど気まずくて」

「そっか。俺も似たようなもんだ」

ヨハンは苦笑いする。彼も十代に手を焼いているのだ。

「あいつも色々あったからな。でも、俺はこのままじゃ帰れないぜ」

「うん、そうだよね。ヨハンと十代は親友だもの。やっぱり心配だよね?」

「ああ。まだネオスペーシアンのサインもらってないんだ」

「親友って何だっけ」

何か涙出てきた。はよ帰れ。

「ヨハン、名前!」

「お前たち、ここにいたのか」

ジムとオブライエンが来た。

「二人はどうしたの?」

「ヨハンを探しにきたんだ。やはり十代のところにいたんだな」

ジムはレッド寮に視線を向けた。切なげに目を細めている。彼も十代が気になるのだろう
『スピリチュアルフレンド』と言っていたし。

「十代は俺の大切なフレンドだ」

「ジム……」

「いい奴だったな」

「ん?」

違和感の正体が分からず、私は首を傾げる。

「太陽を見ると、あいつを――十代を思い出す」

「あの、オブライエン」

「きっと俺たちを照らしてくれる」

「おーい。ジム?」

彼らは何を言っているのか。まったくもって理解できない。

「俺たちは十代を忘れない」

「十代は俺たちのメモリーの中で生き続ける」

「オブライエン。ジム。十代を殺さないでくれる?」

なぜ故人を偲ぶ流れになっているのだろう。留学生の連携プレーは恐ろしい。

「はぁ。アクアドルフィンに添い寝したかったぜ」

「ドクター!鎮静剤を早く!」

思わず叫んでしまった。ヨハンがおかしい。いや、元からかな。彼の心の闇って、アクアドルフィンと添い寝することなのだろうか。それはさておき実に無意義なやりとりだった。
ちなみにこれは、二週間前のできごとである。

「みんなに集まってもらったのは、ほかでもない十代のことなんだけど」

私は万丈目・明日香・剣山くん・翔くん・レイちゃんを呼んだ。

「アニキに会わす顔がないザウルス」

「剣山の言う通りだ。それに十代は俺たちに見向きもしないだろう」

剣山くんは目を伏せる。万丈目だって十代とあんなに仲が良かったのに。

「そうね。私たち、もう戻れないのかもしれない」

「明日香まで!そんな言い方悲しすぎるよっ」

確かに今の十代は別人のようである。けれども、彼が友であることに変わりないのに。

「私たち十代のエビフライを食べてしまったの」

まず万丈目が全部食べてしまい、トメさんが持ってきた追加分のエビフライを明日香たちが胃に収めたとか。

「まあ、食べ物の恨みって怖いですよね」

レイちゃんの言うことは間違ってない。場違いの発言ではあるけど。

「やあ!みんな、どうしたんだい?揃いも揃って暗い顔をして」

吹雪さんが颯爽と現れた。年長者から、いいアドバイスを聞けないだろうか。

「吹雪さん。実は十代のことなんですけど」

現状をかいつまんで話した。すると吹雪さんは意気揚々と答えた。

「簡単なことさ。十代くんに必要なのは、ずばり『愛』だよ!」

「愛、ですか?」

「そうとも!冷えきった十代くんの心を真実の愛で溶かすのさ」

なんとも雲を掴むような話だ。それができたら苦労はしない。彼の意見に万丈目は顔を赤らめ、レイちゃんは目を輝かせていた。

「素敵!ロマンチック!それならボクが十代さまを……」

「聞き捨てならないわね」

明日香がレイちゃんを睨んだ。女のデュエルはやめて下さい。男性陣が怯えてるので。

「こうなったら私が行くわ!」

私は十代の部屋を目指す。ついでに吹雪さんと翔くんも、連れてくことになった。

「十代、出てこいや!そこにいるのは分かってんだよっ!」

「やめて名前ちゃん!借金の取り立てみたいだから!」

十代が出てくる気配は一向にない。もしかして留守なのか。

「アニキいないんじゃない?」

「いや、普通にいるみたいだよ」

吹雪さん、勝手に入ったら駄目だと思うが。

「翔、吹雪さん、それに名前。一体何の用だ」

十代がベッドから、のっそりと起き上がる。スルースキルが高いせいか、不法浸入について触れなかった。

「友達に会いにきちゃいけない?」

十代の冷めたいまなざしに、心がたわむ。こんな彼は初めてだ。

「十代は私たちのこと嫌いになっちゃったの?」

「違う。ただ、俺はみんなの傍にいられないんだ」

「どうして?十代は十代だよ。どんなに大人になっても、変わらないものが貴方にはある」

「変わらないもの?」

「うん。それは――ドSなところ」

「は?」

翔くんが、すっとんきょうな声をあげる。

「十代。貴方は昔からサディストだったわ。だからこそ、カイザーは卒業の模範デュエルの相手に十代を選んだのよ」

「カイザー、そうだったのか」

ゆくゆくはドMのカイザーが、ドSである十代に惹かれたのも頷ける。

「いい話だねぇ」

「違うよ!違うからね!兄さんを何だと思ってるのさ!」

ハンカチで涙をぬぐう吹雪さんと必死に否定する翔くん。

「万丈目が十代をライバルとして意識するのも、あいつがMだからよ」

「そうとも。十代くんには人を引き付ける力があるんだよ。カリスマ性っていうのかな」

吹雪さんは私を援護射撃してくれた。頼りになる。

「さっきから美談に持っていこうとしてるけど、そうはさせないよ」

「翔くん。いずれ貴方にも分かるわ」

「分かりたくないから!」

「さあ、十代。胸に手を当てて。変わらない輝きを感じ取るのよ。早くしないと私が貴方の乳首つまむわよっ!」

「先生!鮎川先生!急患がここにいます!」

「翔くん、静かにして」

きっと彼には刺激が強いのね。子どもなんだから。

「装備魔法『巨大化』発動!」

私は十代の乳首をこねくり回した。少し硬くなった。もっと大きくなあれ。

「……名前。出てけ」

十代に追い出されました。

「落ち込むことないよ名前ちゃん。十代くんも、物言わぬエビフライになりたい時があるんだよ。難しい年頃だしね」

「はい。ありがとうございます吹雪さん。私、諦めません」

「ところで名前ちゃん。レッド寮が無ければ、十代くんも外に出てくると思うんだ」

「それだ!吹雪さん、私いいこと考えました!」

思い立ったが吉日。さっそく取りかかる。

『十代、十代起きて!』

「何だよユベル」

『ばか!燃えてるんだよ!』

「え」

この日から、十代との溝がいっそう深まった。
 

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