短編

□あいまいな関係
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しばらくして、万丈目がロープを持ってきた。
まず最初にヨハンが登ることになった。万丈目だけでは、十代たちを引き上げるのは困難だからだ。

「十代は名前を頼むぜ」

前を見ると、十代がしゃがんでいる。名前は当惑した。

「乗れよ名前。その足じゃ無理だろ」

「気づいてたの?」

「まあな。それより、遠慮すんなって」

「だ、大丈夫だよ!私のことなら気にしないでっ」

名前は必死に断った。申し訳ないのはもちろんだが、それ以上に羞恥心が大きい。あの十代の背におぶさるのだ。彼女にとって一大事である。

「ほら、早く。ヨハンも上がったぜ」

「うっ」

熟考した上で名前は、十代の背中に乗った。

「名前」

「は、はい!」

「ちゃんと掴まんないと落ちるぜ? 手をもっと、こう」

「ひっ!」

名前は情けない声を上げた。動悸は一向におさまらない。

「うう、ダイエットしとけばよかった」

十代に乙女心など分かるはずもなく、彼は気にせず地上を目指した。

「でも……」

――十代くんの背中、大きくてあったかいな。

名前を背負いながら登っていくのだ。十代もれっきとした男で、力があると言っていい。
名前は、改めて意識すると頬がぽうっと赤らんだ。

「やっと着いたぜ!サンキュー。万丈目、ヨハン」

名前が自制心と闘っている間に、井戸を出ていた。彼女は、十代に次いでお礼を言う。

「十代くん。ありがとう、ごめんね。重いでしょ? 私、ひとりで歩けるから」

「これじゃきついと思うぜ」

ヨハンは名前の足に触れた。痛々しく腫れており、歩行は厳しいだろう。

「気にすんなって!」

「十代がこう言ってるんだ。大人しくこいつを使っとけばいい」

万丈目に駄目押しをされ、名前は何も言えなくなった。ここは十代に甘えるべきだろう。

「……その、お、お願いします!嫌だったら地面に叩きつけてもいいからっ」

名前が面白かったのか、十代は笑いながら「そんなことしないって」と言った。

「あのっ、十代くん」

「何だ?」

「ありがとう!」

名前は気恥ずかしくなって、うつむいた。鼓動は、いつになくうるさい。

「十代くん……」

――もっと貴方に触れていたい。これってわがままなのかな?

名前は胸が苦しくて、張り裂けそうになった。この甘い痛みは十代にしか治せない。今は『手放したくない』と切望した。

「くそっ。なぜ十代ばかり」

「万丈目?」

「このままじゃ名前が盗られるぞ!いいのか!」

「はああ? 意味わかんねぇ!」

万丈目は十代に妙な対抗心を燃やしていた。ヨハンは完全な、とばっちりである。
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