短編

□あいまいな関係
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名前は鮎川に診てもらうため、十代と別れた。ヨハンは付き添いだ。

「おんぶしてやろうか?」

「だ、大丈夫よ。気持ちだけもらっとくね」

「それじゃ歩けないだろ」

名前の足つきは、たどたどしい。ヨハンは内心ため息をついた。

「そういえば、井戸にあったカードはどうしたの?」

「万丈目が全部持ってったぜ。あいつ、意外といい奴なんだな」

ヨハンは万丈目に対して偏見を抱いていたのだろうか。付き合いが短いため仕方なくもあるが。

「言っとくけど、万丈目を悪い奴だと思ってたわけじゃないぞ」

「分かってるよ」

ヨハンも万丈目が、不器用だが誠実で優しい少年ということは理解していた。

「万丈目くんも昔と比べて変わったなあ。十代くんの影響? やっぱり十代くんって凄い……」

名前は惚れぼれと言う。誇張表現も甚だしい。十代に関しては客観性に欠けてしまいがちである。

「名前って結構十代のこと好きだよな」

「うん。好き……って、特に深い意味はないからっ」

うっかり口を滑らせてしまった。言質を取られたも同然である。
名前の切迫した胸中など、つゆ知らずヨハンはさらりと言った。

「俺も好きだぜ。十代のこと」

「えっ」

「親友だしな!」

「あ、うん。そうだよね」

名前は肩を撫でおろす。ヨハンは単に友情に厚い人間だった。

「ここは、いい奴らばかりで嬉しいぜ。せっかく来たからには仲良くしたいし」

ヨハンは喜びに満ちていた。気の合う仲間との学園生活。それは幸運なことだろう。

「あとは死ぬほどデュエルできれば文句ないぜ!」

「ヨハン君らしいね」

名前の顔がほころぶ。直情的な彼が少しだけ羨ましかった。

「それより、さっさと保健室に行こうぜ。日が暮れちまう」

「ごめんね。迷惑かけて」

「ばーか。俺が言いたいのは――」

ヨハンは名前を軽々と担いだ。急に体が宙に浮き、名前は焦りを感じた。

「やだ、降ろしてヨハン君!」

「暴れんなって。この方が早いだろ?しっかり掴まっとけよ」

「きゃあああ!」

ヨハンは駆け出した。名前は振り落とされないよう必死だった。

「ヨハン君っ、私、歩るけるから無理しないでぇ!」

「素直に甘えとけよ、こういう時はさ!友達だろ?」

ヨハンは快活に笑った。何てまぶしい。名前の心音が少し大きくなった。

「ありがとう。ヨハン君」

その純真さを、輝きを、失わないで欲しい。名前の願いは、笑顔に変わった。

「へ、ああ。気にすんな」

この時、ヨハンの頭の中で再生された。『名前を盗られるぞ』という言葉が。

「……意味わかんねぇ」

ヨハンは行き場のない感情を持て余していた。
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