短編
□あいまいな関係
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声が聞こえた。助けを求め、何かを訴えるようなものだった。
「……まただわ」
ここ最近、名前は寝不足であった。脳に響く不協和音が原因である。
「精霊? まさか幽霊、とか」
名前の疑問は、すぐに解決した。
「な、なに?」
目の前に光の玉が現れた。淡い光が、ゆらめく。害はないようだ。
「自分に、ついてこいって?」
名前は導かれるまま部屋を出た。消灯時間を過ぎているので、あくまで慎重に。
「ここって」
井戸にたどり着いた。光の玉はそこへ入るが、名前は迷う。身を乗り出して中を見た。気がめいる。暗闇に包まれており、視界も悪い。抵抗があった。
「でも、このまま放っておけないし」
「あれ? 名前じゃん。何やってんだ、こんな所で」
「ぎ、ぎゃああああ!」
突然他人の声がすれば誰しも驚く。名前はそのまま井戸に落下した。
「やっべぇ、名前が落ちた!」
「追いかけるぞ十代!」
十代とヨハンは中へ飛び込んだ。
ちなみに先ほどの声は十代である。彼らは名前のすぐ後にやってきたのだ。
「待てっ貴様ら!」
万丈目はその場に取り残された。
「いたた」
「名前、生きてるか!」
「十代くん?」
「悪い。驚かせちまったか?」
「う、ううん。私が勝手に落ちただけだから気にしないで!」
名前は、とんでもないとばかりに首を横に振った。
「名前も精霊がらみか?」
「ヨハン君。うん、この場所まで案内されたの」
十代とヨハンも目的は同じようだ。
「万丈目もこっち来いよ」
「はしごをよく見ろ、十代」
はしごは途中から切れていた。十代とヨハンは飛び降りたため、気づかなかったのだろう。
「これじゃ帰れねえ!」
「だから待てと言っただろう。ったく、ロープを持ってきてやるからじっとしていろ!」
万丈目は踵を返す。ヨハンは「頼むぜ」と穴から見送った。
「……いたっ」
「名前?」
「な、何でもないよ。ごめんね」
名前は痛む足を隠す。心配をかけたくないからだ。
「十代、名前。これを見ろ」
数枚のカードがあった。おそらく廃棄されたものだろう。ぼろぼろになった姿が何とも物悲しい。
「そういや、万丈目もここでおジャマグリーンやブラックを拾ったっけ」
「あまりいい気分はしないな」
「そうだな」
十代とヨハンは眉を寄せた。許しがたい行為である。二人は、精霊が感知できるから尚のことだ。
「これ、初めて見たわ」
名前はカードをしげしげと見た。
「星の数ほどカードが存在すれば、知らない物があってもおかしくないよね。忘れ去られたのもあるかもしれない」
「そりゃ、まあ」
「……それって凄く寂しい。この子たちは、気づいて欲しかったのかな?」
名前はずっと十代を遠くから見つめていた。彼女にとって十代は憧れであり、特別な存在だ。しかし、十代から見た名前は大多数のうちの一人でしかなかった。名前を知ることもなく、一生交わらずにいたかもしれない。
認められないことは、何よりも怖い。名前とカードたちは深く共鳴した。
「じゃあ、こんなとこ早く出ようぜ。こいつらも一緒にな!」
「大丈夫。ひとりじゃないぜ」
十代とヨハンは名前に笑みを投げかける。その発言には意味深いものがあった。