短編

□あいまいな関係
1ページ/4ページ

声が聞こえた。助けを求め、何かを訴えるようなものだった。

「……まただわ」

ここ最近、名前は寝不足であった。脳に響く不協和音が原因である。

「精霊? まさか幽霊、とか」

名前の疑問は、すぐに解決した。

「な、なに?」

目の前に光の玉が現れた。淡い光が、ゆらめく。害はないようだ。

「自分に、ついてこいって?」

名前は導かれるまま部屋を出た。消灯時間を過ぎているので、あくまで慎重に。

「ここって」

井戸にたどり着いた。光の玉はそこへ入るが、名前は迷う。身を乗り出して中を見た。気がめいる。暗闇に包まれており、視界も悪い。抵抗があった。

「でも、このまま放っておけないし」

「あれ? 名前じゃん。何やってんだ、こんな所で」

「ぎ、ぎゃああああ!」

突然他人の声がすれば誰しも驚く。名前はそのまま井戸に落下した。

「やっべぇ、名前が落ちた!」

「追いかけるぞ十代!」

十代とヨハンは中へ飛び込んだ。
ちなみに先ほどの声は十代である。彼らは名前のすぐ後にやってきたのだ。

「待てっ貴様ら!」

万丈目はその場に取り残された。

「いたた」

「名前、生きてるか!」

「十代くん?」

「悪い。驚かせちまったか?」

「う、ううん。私が勝手に落ちただけだから気にしないで!」

名前は、とんでもないとばかりに首を横に振った。

「名前も精霊がらみか?」

「ヨハン君。うん、この場所まで案内されたの」

十代とヨハンも目的は同じようだ。

「万丈目もこっち来いよ」

「はしごをよく見ろ、十代」

はしごは途中から切れていた。十代とヨハンは飛び降りたため、気づかなかったのだろう。

「これじゃ帰れねえ!」

「だから待てと言っただろう。ったく、ロープを持ってきてやるからじっとしていろ!」

万丈目は踵を返す。ヨハンは「頼むぜ」と穴から見送った。

「……いたっ」

「名前?」

「な、何でもないよ。ごめんね」

名前は痛む足を隠す。心配をかけたくないからだ。

「十代、名前。これを見ろ」

数枚のカードがあった。おそらく廃棄されたものだろう。ぼろぼろになった姿が何とも物悲しい。

「そういや、万丈目もここでおジャマグリーンやブラックを拾ったっけ」

「あまりいい気分はしないな」

「そうだな」

十代とヨハンは眉を寄せた。許しがたい行為である。二人は、精霊が感知できるから尚のことだ。

「これ、初めて見たわ」

名前はカードをしげしげと見た。

「星の数ほどカードが存在すれば、知らない物があってもおかしくないよね。忘れ去られたのもあるかもしれない」

「そりゃ、まあ」

「……それって凄く寂しい。この子たちは、気づいて欲しかったのかな?」

名前はずっと十代を遠くから見つめていた。彼女にとって十代は憧れであり、特別な存在だ。しかし、十代から見た名前は大多数のうちの一人でしかなかった。名前を知ることもなく、一生交わらずにいたかもしれない。
認められないことは、何よりも怖い。名前とカードたちは深く共鳴した。

「じゃあ、こんなとこ早く出ようぜ。こいつらも一緒にな!」

「大丈夫。ひとりじゃないぜ」

十代とヨハンは名前に笑みを投げかける。その発言には意味深いものがあった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ