短編
□あなたが欲しいの
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「今日はねー黒なの」
「何の話だ」
「ブラとパンツの色」
万丈目はコーヒーを吹き出した。名前が、とんでもないことをさらりと言ってのけたからだ。
「やだぁ、準ったらこぼしてる。大丈夫? すぐにふかなきゃ!」
「おい、貴様はどこを触ってるんだ!」
名前の手は股関をさまよっていた。これでは違う染みが広がりそうだ。
「……見たい? 準の好きな黒だよ」
「お、お前には恥じらいというものがないのか!」
「だって、こうでもしなきゃ準は触ってくれないんだもん。こんなに可愛い彼女をほったらかしにするなんて信じらんなーい!」
「くだらん」
名前の言い分にも一理ある。確かに彼女と万丈目は久しく触れ合っていなかった。
「ねえ……だめ?」
「駄目だ」
「何で? 今日は大丈夫な日だよ?」
「……こんな真っ昼間から、できるか。いかがわしい」
承諾どころか万丈目はばっさりと切り捨てた。恋人にも容赦ない。さすがの名前も言葉を失った。
「ふえっ……じゅんのばかっ……そんな言い方しなくたっ、て……」
「な、なぜ泣くんだ! 泣かなくたっていいだろう!」
ぽろぽろ涙をこぼす名前に万丈目は慌てふためく。焦りと罪悪感から、名前の顔を必死でぬぐった。
「や、くさっ。準の袖から醤油のにおいがする」
「何だと! そもそも名前が急に泣くから……!」
「うっ……」
「わー! 悪かった、俺が悪かったからもう泣くなっ」
名前の泣き顔には弱いらしく、ついに万丈目が折れた。
「俺たちはまだ学生だし、子どもだ。むやみやたらと、その、そういった行為をするのはよくないだろう? 万が一の時、負担がかかるのは名前だ」
「準、ちゃんと考えてくれてるんだね。私、自惚れてもいいのかな?」
「勝手にしろ」
「ふふっ。『勘違いするな』とは言わないのね」
「俺とて、いらん奴に気を使うほどお人好しではない」
「準がデレたー!」
名前の機嫌は直り、事態は収束するはずだった。
「名前」
「ん?」
「いったい、何をしているんだ!」
「チャックおろしてる」
名前は万丈目自身をズボンから出した。にんまりしながら、彼のものに指を這わす。
「甘く囁いて、とびっきり優しくされたい時がある。けど、恥も外聞も捨てて強引に求めて欲しい時もあるのよ」
「名前、く、やめろっ!」
「うふふ。じゅん、かわいいっ。……お口でいじめてあげる」
名前は万丈目のものを口に入れた。