短編

□いつか交わる未来へ
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「……ゆう、せい?」

「今の俺なら『あの頃の』お前に言える。名前が好きだ、と」

もう名前から逃げない。遊星は虚構の仮面をかなぐり捨て、熱いハートで名前に直接語りかけたのだ。

「何年も待たせてすまない」

「遊星。あのね、私」

胸がつまって返事ができない。遊星に伝えたい想いが溢れんばかりあるのに、皮肉だ。

「無理に言おうとしなくていい」

遊星は変わらない。その優しさが、名前に勇気を与えた。

「私、報われたいから片思いしてたんじゃない。遊星が好きだから片思いしてたの」


「名前……」

「返事をしてくれて、ありがとう遊星。けどね、私」

遊星は続きを待つ。たかが一瞬、されど一瞬。とても長く思えた。

「あなたのこと今も好きかどうか分からない」

「名前、俺はっ」

「遊星も同じでしょ? だから、『あの頃』なんて言い方した。あなたは、『あの時』の返事をしてくれたんでしょう?」

「それ、は」

「遊星って嘘つけないよね。分かるよ、私には」

名前はくすくす笑う。暗い顔つきの遊星とは対照的だった。

「色々あったもの。私たち大人になったのかな?」

「……ああ」

「なんか変な感じ」

時は容赦なく流れる。大人とは、気がつくとなっているものかもしれない。

「ねえ、遊星。あなたが、ここで待ってると言ってくれたこと、凄く嬉しかった」

「それだけは嘘じゃない」

「ふふ。良かった!」

名前は清々しい気分で夜空を仰いだ。彼女から迷いは完全に消えていた。

「名前に行くなと言いたい反面、背中を押してやりたいとも思う。我ながら、あやふやな気持ちだ」

「それが好きか分からない理由?」

「そうだ」

やはり遊星は真面目だ。彼らしくはあるが。

「それじゃ、改めて。遊星、いってきます!」

「行ってこい、名前!」

「おう! あと、一つ約束。遊星、互いに気持ちがハッキリしたらその時は」

「ここで会おう」

「うん」

そしていつか交わる未来へ。
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