短編

□いつか交わる未来へ
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遊星の眼下には夜景の美しいネオ童実野シティが広がっていた。自らの手で守った、はじまりと絆の街。未来と希望が宿るこの街は永遠の宝だ。

「遊星。何やってるのよ、こんな所で」

「名前か」

「眠れないの?」

「正しくは眠りたくない、だな」

「そう」

多くは語らないが、元より遊星は口数の多い方ではないので、名前はさほど気にしなかった。長い付き合いゆえ彼の性分をよく理解しているのだ。

「名前もネオ童実野シティを出るのか」

「ええ。私にも夢があるからね」

「あの時と逆で、今度はお前が旅立つ番だな」

昔の話だ。遊星はシティへ行き、名前はサテライトに残った。
名前は遊星の無事を祈り、見送った。引き止めなかったのは、信じていたからだ。しかし、そんな彼女にも唯一したことがある。それは――最初で最後の愛の告白だった。

「俺はここで待っている」

「ありがとう遊星」

「名前。俺はあの時の言葉を忘れたことはない」

「……どうしたの、遊星?」

会話の流れから、『あの時』は理解できても、彼の心中までは汲み取れない。

「俺に人を好きになる資格はないと思っていた」

「何よ、いきなり」

「そういった感情を押し殺し、見て見ぬふりをしてきた。どちらにせよ俺にはシグナーとしての使命があったから、許されないことだと思っていた」

人と世界に対し負い目がある遊星が、人や世界を必死に救おうとするのは、道理にかなっていた。自をくじき他を助ける。彼の自己犠牲の精神は根深い。己の幸せが禁忌と考えてしまうほどのものだ。

「ばかね。遊星は真面目すぎるわ。ていうか、頭かったいのよ!」

「そう言われても困る」

「分かってる。遊星ってそういう人間だもん。真面目で、不器用で、誰よりも純粋。『甘えろ、頼れ』って言うくせに自分は甘えないし頼ろうともしない!」

息巻く名前に、ぐうの音も出ない。ひょっとすると怒らせてしまったのかもしれない。遊星は名前の横顔を盗み見する。だが、彼の予想と大きく異なっていた。名前の表情は、眉根を寄せて苦痛に耐えているようだった。

「私はそんな遊星のことが……」

「好きだ」
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