短編
□愛玩動物
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十代を動物に例えるなら、犬だ。いつも笑顔で人なつっこくて、元気に動き回っているからだ。彼に「腹へった、メシ!」と言われると、ついついエサをあげてしまいそうになったり。
もうひとつ特徴的なことがあった。彼はデュエルをしたい時、体をすり寄せて甘えてくるのだ。「いいよ」と言えばとても喜んで、しっぽがついていたら、ぶんぶん振りそうだと思った。
「名前、腹へった」
「ちょっと、十代」
「ん? 犬みたいって言わねえの?」
「前言撤回。あんたは犬じゃなくて狼よ!」
十代は私を押し倒しておきながら、平然としている。このままでは淡い思い出が、桃色に変色してまう。
「狼? 俺は腹がへったから名前を食おうとしただけだぜ」
「それがおかしいの!あんたどこ触ってんのよ!」
あんなに可愛いかったのに、どうしてこんな変態になってしまったのか。いや、昔から鬼畜の片鱗がうかがえた。気づくのが遅すぎたのだ。
「狼はともかく十代は犬じゃないわね」
「じゃあ、何だよ」
「……猫かな。気まぐれな猫」
「俺って、猫っぽいか?」
「うん。色んなとこをふらついて、最後は何も言わずどこか遠くへ行っちゃいそう」
自由を好み、気ままに生きる。十代は何事にも縛られない。きっと「行かないで」という言葉は風に溶けるのだろう。
「俺が猫なら、名前は飼い主ってとこか」
「私が?」
「そうそう。だから、さ」
ほんの一瞬のできごとだ。互いの唇が重なり合った。
「飼ってみるか? 俺を」
十代は挑発的な笑みを浮かべ、「なんなら首輪でもつけていいぜ」と言う。
呆然とする私は、ちゅっ、というリップ音で我に返った。
「じょっ……冗談じゃない。誰が十代なんか!」
「俺は名前だったら飼ってもいいけどな」
「あんたのペットなんかお断りよ!」
「名前は俺の下でニャンニャン鳴いてるから、ぴったりだと思ったんだけどなぁ」
まさか、『夜』の話題を出されるとは思わなかった。
「いや、名前は猫より発情期のうさぎか? 腰を振りながら『じゅうだい、じゅうだい』って何度も――」
「きゃー! もうやめてぇ!」
こっちは恥ずかしくてたまらないのに、十代は心底楽しそうである。このドSめ。
「安心しろ。名前に首輪はつけない」
「信用できないわ」
「首輪よりもっといいもんがあるし」
皮膚にぴりっと痛みが走る。私の首に愛玩の証が記されたのだ。
「俺はこっちの方が好き」
十代はやはり狼だ。