短編

□A
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「ヨハン、落ち着くドン!」
「落ち着いていられるか! 十代の奴、ちゃっかり名前のひざを占領してやがるっ」
十代はようやく手に入れた彼女の太ももに魅了されていた。
「柔らかいし、むちむちしてるし最高だぜ!」
「……よ、良かった」
「名前。顔がりんごみたいになってるぜ」
「それは、その」
「恥ずかしいのか? 照れる名前も可愛いけど、笑顔の名前も見てぇなー」
笑顔どころではない。名前は、やっとのことで理性を保っているのだから。そもそも、十代に大胆にアプローチをかけられ、正気でいられるのが奇跡なくらいだ。
名前は、人の心を弄んだバチが当たったのか、と涙した。
「まずいぞ、このままじゃ名前が」
「どうしたザウルス、ヨハン」
「食われちまう!」

***
「名前、怖いか?」
「……少しだけ。けど、大丈夫。私は十代くんになら、何をされてもいい」
「本当にいいのか?」
「うん。十代くんに私の『はじめて』をあげる」
「名前……」
十代は壊れものを扱うように、そっと触れた。
「あっ、十代くんっ」
「十代って呼んでくれ」
「やっ、十代、ヨハン君に見られちゃうっ」
「何だよ今更。……見せつけてやろうぜ」

***

「つまり、こうなる」
「ならないドン」
ヨハンの妄想フェイズは終了したが、彼は現実との区別がついてないらしい。
一方、十代はというと、突拍子もないことを言い出した。
「名前って俺とヨハンどっちが好き?」
「どうしたの、いきなり?」
「ヨハンって絶対お前のこと狙ってるぜ」
「それだけはないと思うけど」
「いいや、狙ってる。油断してたら、名前は食われちまう!」

***

「駄目よ、ヨハン君。私たち友達なのに」
「じゃあ、友達やめようぜ」
「や、んんっ、こんな所を十代くんに見られたらっ、あんっ」
「こんな時まで十代かよ」
「ヨハンく、ん」
「大好きな十代に、この声を聞かせてやるよ」

***

「多分こうなる」
「えっと、ならないと思うよ」
十代もまた妄想フェイズを行った。似たもの同士である。
「それで名前はどっちが好きなんだ?」
「え、そう言われても」
十代とヨハンを比較したくなかった。返答によっては、二人の仲がこじれかねない。友情にひびを入れたくないのだ。
「十代くん、あの」
「ヨハンは俺の親友でライバルでもあるんだ」
「え?」
「だから余計に気になるんだろうな!」
「良かった。そういうこと、か」
自意識過剰と言ったらそれまでだが、名前は心底ほっとした。
「名前、聞いてんのか?」
「ひゃっ!」
ぴちゃり、と音がする。太ももに十代の舌が押しつけられていた。
「やだっ十代くん、やっ!」
「そこまで言われると傷つくぜ」
「あっ……」
皮膚に唇が吸いつく。十代の独占欲が形になった。
「俺と同じ赤ー!」
「十代くん、恥ずかしいよ……!」
「じゃあ、もっと増やすか? たくさんつければ慣れるかも――」
「おい。デュエルしろよ十代」
ヨハンの介入で場は混乱した。
翌日カードの効果は消え、騒動も沈静化した。十代はすっかり元通りとなったが、名前は当分彼の顔を見られなかった。
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