短編2
□性的嫌がらせ
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キャッシーとのデュエル以来、遊馬へのいたずらが無くなった。
しかし、ターゲットが名前に変わっただけだった。
「おはよう!小鳥、鉄男くんっ」
「おはよう名前……?」
「名前、どうしちまったんだよ!」
何と名前には、ネコミミとしっぽが生えていた。似合っているのが、またおかしい。
「名前。どうしたの、それ?」
「似合うかな? 頑張ってみたの」
名前は髪をかきあげた。ヘアアレンジのことと勘違いしているようだ。どうやら異変に気づいてないらしい。
「今度は名前かよ」
「うぅん、名前なりのオシャレかもしれないし触れないでおきましょう」
鉄男と小鳥は軽く流すつもりだったが、奇妙な出来事はこれで終わりじゃなかった。
次の事件は水泳の授業中に起きた。
「遅れてすみません。水着が見つからなくて」
名前が現れた途端、辺りがざわつく。理由は遅刻ではなく水着にある。指定のではなく彼女のは――白のスクール水着だった。性的なものを連想するには十分すぎる。
「遊馬、まさかお前」
「遊馬くん見損ないましたよ!」
「オレじゃねえええ!」
鉄男と委員長に疑惑をかけられ、遊馬はすぐさま否定した。いくら遊馬でも、人前で恋人にマニアックなコスプレをさせないだろう。
ただし、夜どんなプレイを強要させてるかは知らないが。
「ちくしょー、オレの名前に何てことしやがる!」
「ねぇ、遊馬」
「名前。お前も少しは危機感ってものを」
「見て。スライム」
「何だスライムか……ってなんっじゃこりゃああああ!」
名前の体に無色透明のスライムが巻きついていた。それは彼女の胸と股関を中心にうごめく。そのいやらしい動きに男子生徒は生唾を飲み込んだ。
「いやあっ!」
「この野郎っ名前から離れろ! そこを触っていいのはオレだけだ!」
遊馬の発言は名前を可愛がってると公言したに等しい。発情する男子生徒に向けての牽制でもあった。
遊馬はスライムを取りながら、さりげなく水着に手を入れていた。消毒もかねて指を名前の中に差し込んだ。
「おはよう! 小鳥、鉄男くん」
日がたてば治まると思ったが、そうは問屋が卸さない。名前への嫌がらせとコスプレは徐々にエスカレートしていったのだから。
「もう我慢できないっ!」
「小鳥?」
「今の自分の格好を鏡で見てみなさい!」
小鳥はわなわなと震えながら真実を映した。名前はそこで初めて、自分がナース服を着ていると知る。
「やだっ何これ!」
「それはこっちのセリフ! セーラー服にメイド服、ゴスロリ……今まで気づかなかったの?」
「つうか、それで学校来たって凄いな」
普通なら外を歩けないだろう。天然なのかもしれないが、ある意味感心してしまう。
「うおおっ! 名前、今日もすげぇ格好してんな!」
「あ、遊馬……」
名前は小鳥の背後に隠れた。
「何で隠れんだよ」
「だって恥ずかしいし」
「じゃあ脱げばいいだろ。ほら、更衣室行くぞ」
移動中も視線が名前に突き刺さる。遊馬は隠すフリをして、よく見えるようにわざと彼女を押し出した。羞恥に耐える姿に内心ゾクゾクしていたのだ。
「最初は可愛いと思ってたけど、よく考えればムカつくよな。服の送り主が男かもしれねぇし」
「あの、遊馬。更衣室はあっち」
「よし。ここでいいか」
「……っあ、遊馬、やだっ、学校では、だめっ」
「かっとビングだ!オレ!」
***
「遊馬、名前がいないんだけど……」
「名前なら『腰が痛い』から保健室で寝てるぜ」
「そうなんだ。大丈夫かなあ」
名前を心配する小鳥には「ヤったビングー」という呟きが聞こえなかった。
翌日体液まみれになったナース服がゴミ箱から発見された。