短編2
□8月31日
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今日はみんなで十代の誕生日パーティーをした。ケーキ食べて、デュエルしてバカやって大騒ぎ。万丈目は少し呆れてたっけ。まあ、何だかんだであいつも楽しそうだったけどね。十代も笑顔が絶えなかったし良かった。でも、みんなでプレゼントをあげた時には涙目になってたなあ。十代って意外と涙もろいのね。「可愛い」って、本人に言ったらすねちゃった。
楽しい時間はあっという間に過ぎた。パーティーが終わり、おのおの寮に戻る。
私は、一人じゃ危ないから、と十代に送ってもらうことになった。
「ごめんね十代。わざわざ送ってもらって」
「気にすんなって。外は暗いし名前だけじゃ危ねぇだろ?」
私だけ。そう、明日香は一足先に帰ってしまった。用事がある、というのは建前で、実際のところ私と十代を二人きりにしてくれたのだ。
私はずっと十代が好きだった。彼に片思い中なのは明日香も知ってる。正確には周知の事実というか。
このチャンスを利用しない手はない。私は今日、十代に告白してみせる。
「名前」
「へっ、あ、何?」
「プッ。何ビビってんだよ」
「考えごとしてたのっ」
「フーン。ま、それよりさ、寄り道してかないか?」
「……うん!」
十代の誘いに私は二つ返事で答えた。好きな人に誘われて断る女の子なんていないわ。
「わあ、綺麗!」
「だろ!」
私たちは十代お気に入りの場所で夜景を堪能していた。
星はまばゆいばかりの美しさで、まるで語りかけているようだ。
「オレ今まで自分の誕生日、あんまり好きじゃなかった」
「どうして?」
「31日って夏休みの最後だろ?毎年宿題ためて誕生日どころじゃなくてさァ。親にも怒られるしやってらんネー」
「……ぷっ」
「あっ笑ったなァ!」
悪いけど吹き出しちゃった。すごく十代らしい理由なんだもの。
「それと、学校もないから友達に祝ってもらえなくて寂しかったり……」
照れくさそうに頬をかく十代に胸がきゅっとつまる。一つ貴方のことを知るたびに愛おしくなる。
「それなら大丈夫だよ。今はみんながいるし」
「ヘヘッそうだな!」
「わ、私もいるし!」
「エ?」
告白するなら今しかない。こんな日にフられるなんてシャレにならないが、この想いを伝えなかったらきっと後悔する。
「私、十代のことが好きなの。これからは特別な日には真っ先にお祝いしてあげたい。十代が寂しい時にはそばにいたい。つまり、ね、十代が大好きだから一緒にいたいの!」
とうとう言ってしまった。おかげで心臓が怖いぐらいに跳ね上がる。十代はどんな顔をしているのだろうか。私は見てられなくて目を伏せた。
「は、え、マジで?」
まさか引かれたのか、と思い、見上げたら、顔を真っ赤にして瞬間湯沸かし器みたいになってる十代がいた。私まで恥ずかしくなってきた。
「チクショー!」
「何よいきなりっ!」
「こんなことならオレから言えば良かった……」
「それ、どういう意味?」
ああ、駄目。頭が回らない。期待して、いいのかな。
十代は握りこぶしを作りながら「そういう意味だよ!」と叫ぶ。夢じゃないんだ。
「オレも名前に言わなきゃって思ってた。けど、今日だけは無理だったんだ」
「何で?」
「誕生日に好きな奴にフられたら一生立ち直れネーヨ!」
十代がそう言った途端、大げさだが、お互い発火しそうになった。酷い有り様だ。
好きだから怖い。十代も同じだったんだね。
「ねえ、十代。十代の口から言って欲しいな」
十代は頭をかいて、私に向き直った。
「オレ、名前が好きだ。名前の365日をオレにください!」
「……はい!」
「よっしゃああ!」
私の全てを貴方にあげる。だから一生一緒にいてください。