短編2
□十代とハロウィン
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※卒業後
「名前ートリックオアトリート!」
イベントなら少しのハプニングも一興かもしれない。
十代が名前の目の前にいるのも今日ならではなのか。
「十代。今、何時だと思ってるの?」
「まあ、深夜だな」
「で、この体勢は?」
「俺が名前に馬乗り」
「お願いだから早くどいて!」
端から見ると十代が名前の寝込みを襲っているようである。元より真夜中に男女二人きりという時点で十分危ないが。と言っても、艶事を連想させる雰囲気ではなかった。
「布団が重いなって上を見たら、じゅっ、じゅうだいが乗っているんだもの! 私本当に死んじゃうかと思った……」
「名前気持ちよさそうにいびきをかいてたな」
「いびき!?」
「うっそ。いびきなんて、かいてねぇって」
「もうっ十代!」
表情がくるくる変わる名前が可愛らしくて、十代は、ついついからかってしまう。久々に彼女と会えた嬉しさから、はしゃいでいるのだ。
何をされたとしても、名前は昔から十代に弱いため、結局許すのだろう。今だって十代の笑顔に見とれているくらいなのだから。力関係はやはり十代の方が上だった。
「名前、お菓子は?」
「十代お腹すいてるの? それなら何か作るけど」
「さては持ってないな?」
「えっいやだ、そんなことは……」
「ハイ。イタズラ決定! お前って嘘つけないよな!」
名前の布団が勢いよくめくられる。寒さよりも身の危険を感じ、彼女の体がぶるりと震えた。
「さーて、名前にはどんな恥ずかしい目に遭ってもらおうか」
「そこからまずおかしいわ!」
「んー悩むぜ」
名前を辱めるために十代は珍しく考え込む。
結論は思いのほかすぐに出た。
「名前……」
「ひいいい! か、顔っ十代のかおっ、ちかっ」
「十代くんって呼んで」
「へ?」
「昔みたいに『十代くん』って呼んでくれよ」
十代は的確に名前が最も嫌がるであろう要求を突きつけてきた。
「無理。絶対に無理!」
「何でそんなに嫌がるんだよー?」
「今さら……はずかしい」
「なら、尚更だ。呼べ」
「いや!」
名前が嫌がれば嫌がるほど十代は興奮する一方だ。潤んだ瞳も、触れると熱い頬も、欲を煽るもの。彼のサディストとしての血が騒ぐ。
十代はポケットから携帯電話を取り出した。そして、名前の写真を撮り始めた。被写体である名前は当然慌てる。
「こんなところ撮らないでよ十代!」
「あーこれはヤバい。マジで誤解されるぜ」
「誤解?」
「こんなの送られてきたら、みんなビックリするよな!」
携帯の画面に名前のあられもない姿が写っていた。十代がこの写真を所持しているだけでも、赤恥ものなのに、あまつさえ彼はこれを知人に公開すると言っているのだ。
「ヨハンがどんな反応するか気にならないか?」
「じゅ、十代!」
「ヨハンにだけは見られたくないだろ? だったら言ってもらうぜ」
十代は名前をやすやすと眠らせないだろう。少なくとも彼女が「十代くん」と呼ぶまでは。
イタズラはお菓子のように甘くない。