短編2

□お医者さんごっこ
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 私は十代くんの体が心配だった。聞いたところ、部屋からあまり出ずロクな食事も取ってないらしい。注意しようにも、健康診断はすっぽかされる。それ以前に学校にもあまり来ない。
 私は養護教諭という立場を利用して、彼を直接健診することにした。

「十代くん、居ますか? 名前です」

 数回ノックしても反応がなくて困った。はるばるレッド寮まで来ても本人がいなければ話にならない。
 人が出てくる気配はなく、留守なのかもしれない。諦めて帰ろうとすると、ドアが開いた。

「え、何で名前がここにいんの」
「こんにちは十代くん。突然ごめんなさいね。キミに話があって」
「ふーん。ま、入れば?」
 今まで生徒の部屋に上がったことはなかった。教員が入り浸っていたら問題だし当然だけど。そんな中初めて入ったのが十代くんの部屋。男の子なのに室内は案外綺麗だった。
 妙な居心地の悪さを感じるのも十代くんだからなのだろうか。

「久しぶりだな名前。俺に何か用?」
「こら、名前先生でしょ?」
「やっとその気になったとか?」
「何の話!?」

 よく分からないけど、十代くんの口ぶりから、あまりいい意味じゃなそうだ。怖いわこの子。

「実は十代くんの体が気になって」
「俺は元気だぜ。特に名前を使うとすぐデカくなるし」
「そこだけ元気でも駄目なの!」

 股関を指差しながら十代くんは「問題ない」と言い切った。確かに男の子なら大事な場所だけど、私はわざわざ『そこ』を確認しにきたわけじゃない。それに、よくよく考えたら恐ろしい。私は十代くんの脳内で……恥ずかしくてこれ以上は言えない。

「十代くん、部屋にこもりっきりでしょ? 定期検診もサボるし」
「だから俺と『お医者さんごっこ』しにきたのか」
「いやらしい言い方しないで!」
「いやらしい? どこが?」
「と、とにかくキミが心配なの。体のことで気になる点があったら遠慮なく言ってね」

 十代くんが変なことばかり言うから、ここまでこぎ着けるのに時間がかかった。けど、彼の健康のためにも引き下がれない。しっかり診てあげなきゃ。

「名前って何カップ?」

 あれ、何で私セクハラされてるの。おまけに聴診器で胸をパフパフ叩かれるなんて。

「十代くん。先生、状況がよく分からないんだけど」
「体で気になる点があったら言えって名前が」
「それは十代くんに対しての台詞です!」
「そっか。じゃあ、俺の肉体で良ければ隅々まで調べてくれよ。名前にならメチャクチャにされてもいいぜ」
「どうしてキミはそういう言い方しかできないの!?」

 もしかしてバカにされてるのかも。悦に入ったとでも言わんばかりに、十代くんがニヤリと笑ったんだもの。
 危ないと認識するよりも先に、彼はズボンのジッパーを下げた。

「名前せんせー診察お願いしまーす。ここが腫れ上がってすげぇ辛い」
「きゃああっ! み、見えてるっ早くしまって!」
「患者立たせんなよ。ほら、ベッド行こうぜ!」
「いやっ降ろして!」

 そのままベッドに連れて行かれ、十代くんの体を余すところなく見た。もちろん私も彼にあんなところや、そんなところまで調べ尽くされた。今後彼にどんな顔して会えばいいか分からない。
 

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