稲妻

□この熱は誰のせい?
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「本当に入るのか…?」
隣りでイキイキと目を輝かせている円堂に恐る恐る尋ねると間髪を入れずに肯定の返事が返ってきた。

2人で買い物に来たデパートのイベントで行われていたお化け屋敷の前で立ち尽くしたままどうしたものかと眉を潜める。

「風丸は嫌?」
「嫌っていうか…」

俺は怖いものが大の苦手だった。
小さい頃から一緒にいたんだから円堂だって知っているはずなのに、この質問は愚問だと思う。
本人は全く無自覚だろうが、円堂のこういう部分は本当に厄介だ。
けれど、両手を合わせて頼まれてしまったら嫌とは言い切れない。
仕方ないと諦めて深呼吸をする。
「今日だけだからな!」
そう言うと円堂が嬉しそうに笑って、サンキューと言った。

お金を払い、意を決して足を踏み入れる。
中は薄暗く不気味でしばらくまっすぐに道が続いていた。
受付で渡された懐中電灯を手に、前を歩く円堂から離れないように服の裾をぎゅっと握る。
「何もないな」
「あ、ああ…」
このまま最後まで何もなければいいのに…
心の底から切実にそう願った時。


ヒタ…ヒタ…


背後から音が響く。
恐らく足音…しかも、素足のものだろう。
「え、円堂」
「ん?」
「後ろ…なんか…!」

ダダダダダ!!

「わああああっ!!!」
いきなり近くなった足音に驚き、それから逃げるために円堂の腕を引いて無我夢中で走る。
円堂が何か言っていた気がするが、俺の耳には入って来なかった。

足音が消えたのに気付いて少しずつ歩調を緩める。
全力で逃げたからかはたまた精神的にも疲れたからか、かなり体力を消耗した気がする。
そんな俺を円堂が心配そうに見てきた。
「大丈夫か?」
「ああ…すまなかった」
完全に自分のペースで走ってしまったから俺よりも円堂の方が疲れてるだろうに心配をしてくれる円堂に申し訳なくなって謝ると、いいって、と笑いながら首を横に振った。
「でも抜け出すまでずっと走るんじゃ流石に疲れるから…」

円堂が左手を俺の右手と絡めるようにして手を繋ぐ。
所謂、恋人繋ぎである。
「こうしてれば絶対離れないし、いざという時は走んなくても俺が守ってやれるから一石二鳥だろ?」
「…そう、だな」

普通なら恥ずかしくてなかなか口に出来ない台詞を簡単に言えてしまうのも円堂の厄介な部分の1つだ。
部活中は仲間を励ましてくれる頼もしい性格だが、今はプライベートで2人きり。
俺1人にしか向けられていない言葉だと思うと恥ずかしくて仕方がない。
ニッと笑う円堂に自分の顔が赤くなっていくのが見えていないか物凄く心配だった。


この熱は誰のせい?




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水色マーブルちょこ。様に提出させて貰った作品です。

夏=怖い話という方程式が私の中で出来上がりつつあって、風丸さんがそういうの苦手だったら可愛いななんて思ったのがきっかけでした。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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