その男、○○につき注意せよ!

□その男、初デートにつき…
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散々、振り回されながら私の中の達海さんへの想いは徐々に増していく。
一緒にいるだけで私が私でなくなってしまうような感覚に襲われるんだ。


未だ、繋がれた手の導くがままに着いていけば遊園地の中に入っていく。


「あの…達海さん?」

「この観覧車からの夕日が綺麗なんだぜ?」


そう言って無邪気に笑う彼を見て無性に泣きたくなった。





観覧車に乗った私たちは何故だか無言だった。
なにかしゃべって欲しいとも思わなかった。
暮れていく夕焼け空によって照らされた街並みを穏やかな表情で見つめる彼を、私はぼーっと見つめていた。


「チェリーはさ…」

「へっ?」


そんな達海さんが突然話しかけるから変な声が出てしまった。


「な、なんですか?」


自分から話しかけといて何も言わない達海さんに緊張してしまう。


「チェリーは俺がプロサッカー選手って言っても何も聞かないし、言わないよね?どうして?」


少し前の私なら
興味がないからに決まってんじゃない!
…って答えた。

けど…

私の性格上、本当に興味のない人間とこうまで関わり合うことはない。
心のどこかで私は…この人と一緒にいることに楽しさを感じていたのかもしれない。
そして、この胸がもやもやとする感情を彼に持った。


「どうしてかな…。
私は達海さんに興味を持ったのであって、サッカーをしてる達海さんはあまり知らないから…。
この間、CMとか雑誌で見たけどイマイチ実感わかないんだよね。」

「そっか…」

目の前の達海さんはわずかに安堵の表情を浮かべていた。
私には分からない何かを背負ってることぐらいは理解できたけど、その何かを暴く気にはなれなかった。
私にとっての達海猛は変態で唐突で人を振り回して…でも憎めない人――それでよかったから。


「あっ!てっぺんだ…綺麗…」


窓に手をついて目を細めた。
夕焼けに燃える下町が温かく見えた。


そんな私を見つめる達海さんも穏やかな笑顔を浮かべていて。


この時間がいつまでも続けばいいなんて、そんならしくないことを考えていた。



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