蒼き女王

□2GAME
1ページ/5ページ



その者がコートに入っただけで、空気は震えた。

その者の瞳を見ただけで誰もが息をのんだ。





『全員集合!』


女子のテニスコートに
凛とした声が響いた。


『はいっ!』


返事をする部員たちの規律は乱れがない。


彼女の存在感に圧倒されていた、桜乃たち新入部員も慌てて整列した。



「まず、1年生は初めまして。
私が部長の
月美 チェリーです。
入学式で知っての通り、生徒会副会長も兼務してるわ。
どうぞ、よろしく。」


一見、優しさだけを含んだ笑顔は桜乃たちをホッとさせたが…

彼女らはすぐにそんな感情をなくすことになる。



「貴女たち1年生がどんな理由でテニス部を選んだか私には分からないけど、1つだけ…言っておく。」





『"遊びのテニス"がしたいのなら、今すぐコートから出て行きなさい。

私たちは全国で勝つために戦う集団だ。』





射抜く瞳とはこういうことを言うのか…。


チェリーの瞳はまさしく戦う者のそれだ。


普段の彼女を
『青学の華』と言うのなら…


今の彼女は誰も寄せ付けない。
『孤高無敗の女王』――



桜乃は彼女に畏怖しながらも、強い"憧れ"を持った。



そう…それが月美 チェリーの持つ、人を惹きつけるカリスマ性の表れであった。



緊張感に誰も動けなかったが、次の間…チェリーは桜乃の方を見てニコッと笑った。



「でもね?勝つことだけがテニスじゃないから。
まずはテニスを楽しむこと!
意味さえ履き違えなければ大丈夫。私たちは全国の土…いや、芝かしら?きっと踏めるわ。

1年生も力を貸してね。」



『ハイっ!』



―――月美部長…なんて綺麗に笑うんだろ…///



桜乃は目を輝かせた。
まさかこんなカッコイイ先輩がいるなんて。




「あっ、そうそう。
今日は私あっち行くからいつも通りにやって。1年生は早く部活の雰囲気に慣れてね。
菖蒲……副部長の芳賀は委員会でいないけど後で来るから。


それまでは柚咏に任せるわ。」



さっきとは打って変わって面倒見の良さそうなチェリーに桜乃は驚いた。



「いいけどさー、また
"あっち"で打つんならあたしも見たかったな〜」


柚咏も先のピリピリとした緊張感はまったくなく、いつも通りチェリーに甘えていた。



「ブツブツ文句言ってないの。何かあったら呼んで。」


「了ー解」



しぶしぶと受け入れた柚咏にチェリーは苦笑しながら、女子コートに背を向けた。










*
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ