蒼き女王

□3GAME
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『ただいまー!ユウいるー?』


帰宅したチェリーの声にひょこっと現れたのは
月美 悠利(ユウリ)……チェリーは「ユウ」と呼ぶ彼女の最愛の弟だ。

さすがは彼女の弟だけあって彼の容姿はピカイチだ。
黒髪は彼の知的な雰囲気を、意志のこもった瞳はしっかり者の彼を、そして太陽のような笑みは朗らかな性格をよく表している。

ちなみに彼もテニスをしていて小学生部門の大会を総なめしている実力者だ。



「おかえり!姉さん!」


満面の笑みで迎えてくれた弟をチェリーは自分の子供のように大切に、宝物のように育てている。


そして小学4年生の悠利もまた、たった一人の家族…チェリーが世界で一番大好きで大切な人だ。




全体的に明るい雰囲気の一軒家の広い住まいで、お互いに支え合いながらチェリーと悠利は二人だけで暮らしている。


主に生活費と学費は両親によって偶発的に残された結構な貯金と
チェリーの芸能活動だ。



職業は歌手。


選んだ理由は2つ。
1つは、テニスの次に音楽や歌が好きだから。

そしてもう1つは彼女のずば抜けた音楽才能にある。

チェリーは物心ついた時から「全てを失うまで」の間、英才教育を受けた。

絶対音感を活かして鍵盤楽器、弦楽器から声楽まで幼少期のほんの少しの時間で彼女は開花した。


チェリーがあの頃のことを語ることはない。


それでも月日が経っても彼女にとって音楽は楽しくて優しいものだった。


テニスと出会い、魅せられなければ…
きっと彼女は音楽の道に進んでいたに違いない。



生活のため、それも仕事とは言え
自分が作詞・作曲し、想いを込めた歌を人に聞いてもらえるのは嬉しい。



そんなチェリーという宝石を見つけ出したのは
現在の彼女のマネージャーだ。

中1の時、幼かった悠利へのオリジナル子守歌を外出時に唄った。
それを偶然マネージャーは耳にし、飛びかかるように彼女を誘った。


そのくらい歌手としての歌声は彼女の美声を持ってすれば、この上なく素晴らしかった。


所属事務所としては彼女の美貌と美声を十分に売り出したい所だが…
彼女の意志は強く、
ライブはやるが、決して公共の電波に彼女が流れることはない。

チェリーは公共の電波の危険性――周りの大切な人たちを巻き込み、自分の生活を犠牲にしてしまうと分かっている。


CDジャケットにはぼんやりと描かれたこともあるが、それが理由で街で声をかけられたことは一度もない。


にもかかわらず…
彼女の歌声は老若男女問わず認められ、静かにブームを巻き起こしている。
もちろん、ファン多しなのでライブは10分もかからずにチケット完売。

1年に1度出すかどうかのCDは発売すると同時にオリコンで1位を獲得し続けている。


正体不明の歌姫。


まぁ、しかし。

噂と言うものは止められるものではない。
学生の間ではもう有名な話だ。


『青学の華』といえば月美チェリー。
『孤高無敗の女王』といっても月美チェリー。

そして…
『天使の歌姫』
『正体不明の歌姫』
『ディーバ』
といえば、どう転がっても月美チェリーの名があがる。



だが、何度も言うように静かなブームであり、尚且つ彼女の周りは騒ぎ立てることはしない。


マスコミもファンも、彼女の生活を慮っている。

それは仁絵に彼女の謙虚な性格と事務所や地域の手助け、何より…

その歌声にある。


時には、透き通った優しい歌声
時には、共感を呼ぶJ-POP


彼女の声に宿る想いを自然と受け取る聞き手は、彼女の邪魔は決してしない。


静かに、穏やかに彼女を見守ることで、また新たな歌を聞ける。

それを聴いてファンは感動以上の感情を受け取れる。


その関係が一番だった。




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