蒼き女王
□5GAME
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やって来ました金曜日。
今日は立海へ殴り込み…いえいえ、違います。
生徒会の仕事でチェリーは柚咏と共に神奈川県の立海大附属中学校に行って参ります。
今日は5時限授業だから放課後すぐに学校を出れば余裕で着くはずだ。
立海は今日は6時限らしいからちょうど良い。
「資料は持った。一度、家帰ってユウと荷物を持って、快速に乗る…
あっ…柳くん、じゃなくて柳に一応、連絡をして…」
生徒会室にて。
今日これからの予定を細かく立てていくのは、チェリーの性格だ。
長年、主婦業をこなすために自然と身に付けてしまった。
そんなチェリーをまったく気にせず、ソファーで寝っ転がる柚咏は鼻歌を歌っていて誰から見ても上機嫌だ。
「チェリー〜☆楽しみだねぇ☆☆」
「うるさいと置いてくわよ?」
ジトリ――とチェリーが睨みをきかせると柚咏は速攻で土下座した。
美人が怒ると怖すぎる。
「すみませんでしたー!」
浮ついた柚咏にチェリーは呆れてため息をこぼした。
「もう…遊びで行くんじゃないって何度言えば分かるのよ。」
「だって!大好きなチェリーと愛の逃避行!
可愛いゆーくん付き!
これに興奮しない人はいな「柚咏しかいないわね。」
「むぅ〜!ホントなんだから!」
「分かった。分かったからこれプリントアウトして。」
机上にあるパソコンを指差して、今度は自校の仕事を片付け始めた。
柚咏は渋々とパソコンに目を向けると、目を見開いた。
「こ、これ…」
画面を見て固まる柚咏など見向きもせず、チェリーはせわしなく右手を動かす。
「柳がいるからいらないと思ったんだけど、会計はあまり関わってないみたいだから一応ね。」
「すっごぉ〜い!
いやぁ〜仕事ができる女はイイねぇ。
まぁ、そういう人はモテないって雑誌に書いてあったけど。」
「残念ながらモテるために仕事してる訳じゃありませんから。」
「もったいない…。本気になれば誰でもチェリーを好きになるのに。」
「今度はお世辞?
今日の授業終わり次第、校門集合ね。それじゃ、授業に遅れないのよーにね!」
チェリーはプリントアウトした資料をバッグに入れて、次の授業のために颯爽と生徒会を後にした。
取り残された柚咏はソファーにぐだーっと倒れた。
「お世辞じゃないっつぅーの!無自覚って恐ろしいわあ…。」
整理整頓された生徒会室を見回す。
手塚もチェリーも几帳面だから、柚咏が散らかしてもすぐに元に戻る。
もちろん、手塚からはネチネチと文句を言われ、チェリーからは何ともステキな笑顔で生徒会の仕事を回される。
キーンコーン…
予鈴が校内に響き渡る。
この場所を離れがたいのは何も、このソファーが『柚咏専用』と言われるほど好きだからだけではない。
ここで過ごす日も段々少なくなっていくのか、と思うと部屋を離れるのが惜しい。
(このままサボっちゃおうかなー…)
しかし。柚咏には最大の敵がいた。
ピンポンパンポン…
《えっ…先輩っこれマジで流すんですか?ヒィッ!!…は、はい。
さ…3年上原柚咏さん、『今すぐ教室に戻らないと…どうなるか分かってるよな?』
ちょっ!!芳賀先輩ぃ〜!
ブチッ!!》
柚咏は放送を聞くやいなや、風のように生徒会室を出て教室まで全速力で走る、走る。
(ヤバいヤバいヤバいヤバい!)
さっきの放送の声の主は分かりきっている。
放送委員を脅すなんて芸当ができるのはただ1人。
芳賀菖蒲しかいない。
きっと楽しげに口角を上げながら黒い笑みを浮かべているに違いない。
『セーフッ!!』
さすがはテニス部。
教室までの全力疾走でも息は切れてない…が、涙を浮かべている。
クラスメイトは柚咏の気持ちが十分に分かるらしく、一様に同情の視線を送った。
「さすが菖蒲。仕事が早いわね。」
感心、感心と笑っているチェリーをジロッと睨みつけた。
「笑い事じゃない…。」
ムスッとする柚咏にチェリーはさらに笑った。
すると、柚咏の隣のクラスメイト加代がストップウォッチを見せ付けた。
「柚咏、喜びなよ!放送をかけてから教室に戻る時間、自己ベストだよ!」
(何故、満面の笑み…
ってか!計ってんのかい!)
柚咏の心境とはまるで別に
おぉー!と教室内で小さな拍手が巻き起こる。
クラス全員がグルだと悟る。
「そんな不名誉な記録いるかァ!!」
「だったらサボらないことね。本気で置いてくわよ?」
チェリーを怒らせると怖い。
「スミマセンデシタぁ!」
「おーい、上原。授業始めてもいいかー?」
「ハッ!先生いつの間にっ!?まったく影が薄いと困りますね!」
「(ブチッ!)黙らないと今日の問題、赤点大好きな上原に全部当てるぞ?」
「か…勘弁して下さーい!」
柚咏の情けない叫びが教室に響き渡った。
(今日って…厄日?)
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