その男、○○につき注意せよ!

□その男、初デートにつき…
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そんなわけで。
私の中の達海さんという人間は変態で、変態で、変態な人なのに地元の住人に慕われている変人…という認識であった。

そして彼がなんと言おうとこれ以上関わりはないのだと思っていた。


なのに朝、珍しくスポーツ紙なんぞを開いたのが間違いだった。
私は経済が知りたいのだ。
下の階の住民がいまをときめくサッカー選手などとは間違っても知りたくはなかった。


「せっ…セーフ!」


しこたま走った私の肺はゼェハァとイカレた呼吸を繰り返している。


「めっずらしー。チェリーがギリギリなんて今日雨でも降るんじゃない?」


友人がそう言うのも無理はない。私は時間には厳しいのだ。


「あとで話すよ…」


今はとにかく息を整えさせてくれ。

教授も、見りゃわかんでしょ?こっちは朝から今世紀最大の驚きを経験した後、駅前のコンビニからダッシュで飛び込んできたんです。

だからさ…

「そこのキミ。経営学の理論をといたオーストリア出身の者といえば…」

「ピーター・ドラッカーです」


「よろしい。では……」


毎時間、私に当てんのやめろやっ!


そんな私の心の叫びは先生に届くことはなく、90分の授業中に何度も当てられた。


そして思った。


すべての元凶は達海猛にある…と。




しかし、その元凶を避ける技術はあいにく持ち合わせていなかった。


「よう!昨日は間に合った?」

「えぇ。間に合いましたが最悪な日でした。そして今日も今この瞬間から最悪な日になりそうです。」

「ふーん。それよりさ〜」


オイコラ。自分で話ふっといてスルーかよ!


「今日、ヒマ?」

「ヒマじゃないです。今日は最近誰かさんのせいで被害を受けている可哀相な私へプレゼントを…」

「よし、じゃあ一緒に行こう。」

「はぁ!?どこへ?ってかなんでそうなる!!」

「プレゼントでしょ?チェリーにETUを教えてあげる。」

「教えてくれなくていいです。」

「そー言うなよー。楽しいぜ?」

「結構です。」

「あっ!結構って言った!よし行くぞ〜」

「ちょ…ちょっと!」


なんだその悪徳商法的な感じは!



結局。
日々溜まったストレス解消ショッピングは渋谷でも、表参道でもなく…やって来たのは浅草――。


「達海さん…ここは一体…」

「え、なに?もしかして知らないの雷門。」

「いえ、それは知ってます。私が聞きたいのは何故ここに来たかってことです。
サッカーと関係あります?」

「あるよ。俺たちのホームタウンだもん。
ってことで行くかっ!」

「ハイ?え、ちょ…」


勝手に話を進めるなっ!
そして勝手に手を繋ぐなっ!


――と、文句を言う暇もなく、気付いたら人形焼を片手に観光を楽しんでいた。
長い間、東京に住んでいるけど花火の時以外は全くと言っていいほどに来ない。
それに…隣の男が楽しそうに笑うから私も自然と笑顔になっちゃうっていうか…。なんか、繋いだ手を妙に意識しちゃって嫌じゃないしいいかな、なんて。

そんないつもの冷静な自分とはかけ離れた自分に悶々として、お寺の煙を頭と…あと顔にしこたま浴びた。
(だって浴びた場所が良くなるっていうから…)

そんな必死な私を見て達海さんが「欲張ると効果ねぇよ」なんて言いながらぐしゃぐしゃと頭を撫でるから余計に胸の高鳴りが酷くなる。
仕方がないので顔に浴びている煙を手で達海さんの脚にやってみたら、彼は驚いて、すぐにお腹を抱えて笑い出した。


「なっ…なによ?」


そんなに笑わなくてもいいじゃない、と恥ずかしさを隠せない顔で呟けば達海さんは涙を浮かべながら


「チェリーって俺のこと知らないようで知ってるよな。」


と、優しく笑ってみせた。


その時、私はヤバいかもしれないと思った。
この胸の高鳴りは…
隠せない顔の熱さは…
いつの間にか、引き返せない想いに繋がっている。


「あんたのことなんて私を振り回す酔っ払い変態なサッカー選手ってことしかわからないわよっ!ばーかっ!」


この顔を見られたら終わりだ、と全くもって可愛げのない台詞を吐き捨て先に進む。


「あっ、おい待てよー。
まだパンツのこと気にして…」

「それを言うなっつってんだろーがァァァ!!」


速攻Uターンして達海さんの口に人形焼を2、3個一気に詰め込んだ。


油断も隙もないっ!
さっきのトキメキ返せ変態っ!



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