☆山獄小説2☆
□寝耳に「甘い」水
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04月24日。
それは、彼1人に限らず、並盛中学校の中でも大きな日だった。
「「「武〜誕生日おめでとうっ!!!」」」
「おっ、みんなサンキューなっ♪」
「「「キャ〜〜〜〜〜〜〜♡」」」
クラスはもちろんのこと学年を問わず女子からもてるこの男、山本武。
彼の人気は学校中に及んでおり、ファンクラブまで結成されるほどである。
彼の尋常ではない人気っぷりが、彼の誕生日を一種の並盛の重大イベントにしているのだ。
まず04月24日となれば、登校中に何人もの女子生徒からプレゼント攻めだ。
学校についてもロッカーはプレゼントがつまっており、
おまけに机の上にもプレゼントが山積みになってしまう。
そして当然のごとく、その日学校ですごす彼のまわりには人が尽きないのだ。
そして彼のもっともすごいところが、そんな中で男子にも好評だということだ。
普通ならば妬まれてもおかしくないのだが、彼は男女ともに人気である。
恐らく彼のわけへだてない優しさが、その要因となっているのだろう。
人望にあつい彼のまわりに群がる人たちを眺めながら、
彼の親友であるクラスの2人が教室のすみに座っていた。
「ひゃ〜、相変わらず山本の人気はすごいね!尊敬しちゃうよー;」
通称ダメツナと呼ばれる何をやってもダメダメな男、沢田綱吉は、
彼の相変わらずの人気っぷりに苦笑いを浮かべながらも尊敬の意を見せる。
「けっ、あんなヤツのどこがいいんでしょうね。」
頬杖を付きながら、人気者の彼に対して悪態をついたのは、
クラスの中でも怖いやつとして知られている不良生徒、獄寺隼人である。
実は彼は、こんなことを言っておきながらも…………
『獄寺君、いつにもまして不機嫌だ〜(OдO;)』
彼は、今まさに文句を言った山本武の彼氏(?)、である。
否、彼女、と言ったほうが正しいのだろうか。
立場的にはそちらの方が正しいだろう。
『まぁ、自分の恋人がああで嬉しいわけないよね・・・汗』
この二人の関係を知っているある意味可哀想な男、沢田綱吉は、
獄寺隼人の心情を察してさきほどとはまた違う苦笑を浮かべた。
「あんなヤツなんてこれからハブにしましょうっ、十代目っ!!」と、
本当にしそうな勢いで綱吉のほうに言ってくる。
それにうなずけるわけもなく、ハハハと乾いた笑いでごまかす綱吉だった。
そんな会話の中で、話題の中心となっていた例の人物が近寄ってきた。
「獄寺!ツナ!おはよっ!!」
たくさんのプレゼントを両手にかかえながら、満面の笑みであいさつをしてくる。
彼はこの日に限り、登校中のプレゼント攻めでこの二人に
迷惑をかけまいと二人とは別々に登校しているのだ。
「おはよう、山本!誕生日おめでとう!!」
「ありがとなっ、ツナ!」
やはり親友から言われるお祝いの言葉は格別に嬉しいらしく、
心からの感謝の言葉が返ってきた。
だが彼には、大親友のツナ以上にその言葉を待ち望む人物がいた。
山本の視線がゆっくりと綱吉の隣にうつる。
綱吉の隣で不機嫌そうに頬杖を付いていた獄寺は、
山本と目が合うとふんっと鼻で息をしてすぐにそっぽを向いた。
山本の背後に「ガ―ン!!!」という効果音が聞こえるようだった。
「武!私からもプレゼントあるんだよっ!」
「あ、ずるい〜!私も私も!!」
恋人の素っ気無い態度にショックを受けて硬直したままの山本を、
他クラスからきたたくさんの女子が、半ば強引に連れて行った。
どちらの気持ちも痛いほどわかる綱吉は、額に汗をうかべながら、
やはり苦笑いをするしかなかった。
その日1日中、彼のもとには人がひっきりなしに訪れ、
結局山本武と獄寺隼人が学校で話すことはなかった。