☆日一小説2☆

□強くなるから
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どんな時も
お前だけを見ていた。


お前の為に
笑っている筈だった。




…だけど、そんなことは
無理なんじゃないかと



思う自分も、ちゃんと存在していて













「冬獅郎ー…?」



帰り道は夕日を背に
冬獅郎の少し後ろを歩く。

遠慮してる訳じゃなくて
ただ単に、俺がそうしたいだけだ。






ピクニックのようなノリで現世に来た彼奴らの中に、お前はいた。


任務だとは分かっていたけど
それでも十分嬉しかった。

暫くは、同じ物を見て
同じことを共有できる。



名前を呼べば、その整った顔が振り返る。
夕日に照らされた銀色の髪が風に靡いて、忽ち翡翠色の瞳に捕らわれてしまう。


「何だ?黒崎」


「あ…っ、何でもねぇ」


自分の意見に
思わず羞恥してしまう。
言えず、頭を下げる。




俺より低い身長も、下に出来る影は大きい。もちろん、そう言った日には流石の俺でも氷漬けにされてしまうだろう。


ボーっとしていた所為か、追いつくのが少し遅れてしまう。



「…バーカ、」


「へ?ぅわっ…」


「…お前の考えてることなんてお見通しなんだよ、」


手を取られ
別れ道へと向かう為の坂道を登る。


何故、冬獅郎は分かってしまうのだろう。
俺の考えを、俺がやって欲しいことを、何でもやってのけてしまうのだろう。



「…恋人なんだから、何でも言えっての。」


「…冬獅郎、迷惑なんじゃないかって、思って」


「んな訳ねぇだろ。寧ろ甘えてくんねぇと寂しいっての。」


思わず目線を上げると途端に逸らされる顔。
耳が真っ赤に見えるのは、夕日の所為なんかじゃないと思う。



こんなにも
俺は冬獅郎に愛されている


「っ…ありがとな!冬獅郎」






こんな日常が
永遠に続けばいいと。
叶わぬ願いだとしても
願わずにはいられなかった。


明日のことさえ
俺は知らなくて
知ろうともしなくて
ただただ冬獅郎だけを見ていた






…だから、あんなことになるなんて考えてもいなかったんだ。






それから数日と経たないうちに、現世に破面が襲撃してきた。


ルキアと一緒にいた俺は、あいつの霊圧がだんだん揺らいでいくのを感じていた。



耐えるんだ。
今自分のやるべきことは何なのか、理解するんだ。


冬獅郎は隊長だ。破面相手に負ける訳なんて無いと頭では分かっていた。



信じろと、
心配するなと
あいつに言われたから
俺は、ただ戦っていた。
早く終わらせて、あいつの元へ行くために。








…だからこそ、目の前で真っ赤に染まるのが誰だか、一瞬分からなかったんだ。




「冬獅郎…!!なぁ、起きろよ冬獅郎ッ!!」


「黒崎くんっ…」


「一護、隊長は織姫がついているんだから大丈夫よ」



取り乱す俺を優しく宥める乱菊さん。


この人は大人だ。
ずっと一緒に戦っていて、目の前で冬獅郎が倒れるのを見た乱菊さんの方が、俺より辛いに決まってる。



悔しさと息苦しさが
胸に突き刺さる。
爪が食い込むほど強く拳を握り締める。







俺が、弱いから
冬獅郎を、ルキアを、護れなかったんだ。


みんながくれる暖かさに
冬獅郎がくれる温もりに
ただ縋っていただけだった。



「冬獅郎…ごめんッ。俺、強くなるから」


未だ青白い顔をして横たわる冬獅郎に、そっとキスをする。



強くなって
またお前の隣で
戦えるようになってみせるから



だから…




(今だけは、君の傍で泣かせて下さい)




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