☆神様からの贈り物☆

□In the cage
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何処よりも居心地のよかったこの場所が
何で、今はこんなに息苦しいのだろう


















In the cage














「…………」



言わば年度始め、というだろうか
この時期は何処の隊も書類の整理で忙しいらしい
それは勿論、冬獅郎が隊長を務める十番隊も例外はない
邪魔をしないように、俺は静かに冬獅郎が買ってきてくれたお菓子と、乱菊さんが淹れてくれたお茶を飲んで過ごす



「おい、松本」

「はい」



あ、ヤバい
始まった



「アレは何処だ」

「あー…アレはですね、…ああ、はい、ありました」

「悪いな」

「いえ、大丈夫です」



端から聞いていれば、それは心の底から信頼しあっている理想の上司と部下の会話
でも俺は、それが苦手で堪らない
だって、こんなにも胸が痛む



「松本、書類に訂正箇所が見つかった」

「ええー!そんなー!」

「馬鹿野郎、前もおんなじ間違いしてた箇所じゃねえか!」

「え?…あ、本当だ…」

「気をつけろって言ったの、聞いてなかったのか?お前は」

「あ…ははは…」



多分、初対面でこのやり取りを見た人は二人を夫婦
もしくは恋人同士だと、感じるんじゃないかと、俺は思う
でも、冬獅郎の恋人は、俺で
でも心のどこかでは、…乱菊さんのほうが、いいんじゃないか、とかって



「次はねえからな」

「はーい」

「ピシッとしろ」

「はい」

「………まあ、いいだろ」

「何ですか今の腑に落ちてないみたいな顔!?」



だって、乱菊さんは冬獅郎が隊長に就いた時から
俺よりもずっとずっと、冬獅郎を知っていて
なのに、俺は、まだ片手で足りるくらいしかしらない



「気のせいだ、気にすんな」

「えええ?誤魔化すんならもっと上手くやって下さいよ!」

「あー、ったく、うるせえなぁ…」



すぐ近くから聞こえてくる会話なのに、俺だけ別世界にいるみたいに遠くに感じる
嫌だ、こんな自分が嫌いだ
いつも俺に優しく接してくれる乱菊さんにまで嫉妬してしまう、自分が



「…いち…ご?」

「……え?」



もやもやしていると冬獅郎が俺の名前を躊躇いがちに呼ぶ
反応すると、冬獅郎の瞳が僅かに見開く
何、え、俺、何か、した?



「一護、どこか痛いのか?」

「別、に?」



子供じみた嫉妬にかられて胸が痛いと言ったら、迷惑だろうから、笑って誤魔化す
上手く…いったか?



「だったら、…何で泣いてるんだよ」

「…え……」



自分の膝を見てみると、死覇装に滲んだ水滴
頬を触れば幾つか涙の筋が出来ていた



「う…そ……」



何で俺、泣いてんの?



「あ…っれ?どうしたんだろ、俺、…はは…っ」



袖で拭っても拭っても、涙は溢れてきて意味がない
擦りすぎて目じりが痛い、多分赤くなってる
でもはやく止めないと迷惑がかかるから、だから、



「…松本、悪いが…」

「ええ、わかってます」



冬獅郎の声を合図にしたように、乱菊さんが部屋から出ていく気配がした
ああ、結局俺はこうやって二人にいらない面倒をかけてしまう






「一護」



ふわりと隣に冬獅郎が座る
うつ向いたまま何も言わない俺を抱き寄せ、背中を撫でてくれる手
大好きな、冬獅郎の体温



「うぅ…」

「馬鹿、泣くなって…」

「だって…っ、俺また二人に迷惑かけて…」

「俺も松本も気にしてねぇよ」


優しすぎる冬獅郎にいつもいつも甘えてばかりの俺なんか、愛想を尽かされてもおかしくないのに



「…お前はいつも我慢しすぎなんだよ」

「しろ…っ」

「俺には全部、曝けだしていいんだぜ?一護」

「で、もっ」

「どんなお前でも愛してるから、な?」



羽織に、冬獅郎にすがりつくようにぎゅうっと握る
僅かに震えている拳を、包み込んでくれるあったかい手のひら



「俺、は、こんな自分嫌いなんだ…っ」

「…何言ってるんだよ」

「だって…っ、乱菊さんにまで嫉妬して…馬鹿みたいで…っ」

「……は?」



口を開き、ぽかんとする冬獅郎
でも一回堰を切ってしまった俺は形振り構わずに、止まらない醜い感情を吐き出す



「と、しろうは…俺の、ものなのに…っ」

「一、護…?」

「乱菊さんにも誰にも渡したくなくて、でも、冬獅郎と乱菊さんが恋人みたく見えてっ」

「い…」

「冬獅郎の恋人は、俺なのに…っ!」



ひくっ、ひくっ
鼻をすすりながら、涙ながらに訴えると
何故か冬獅郎が視線を少しさ迷わせ、照れくさそうに微笑んだ



「あー、…ったく、可愛いなあ…」

「っ何が、」

「天然か?それ」

「だから…っ」

「それはいわゆる…、一護は俺のことが好きで、副官として接する松本にまで嫉妬してたってことだろ?」



ふわり、頬をなぞる指
形のいい眉を弛めて、冬獅郎が言う
あれ、よくよく考えれば
俺、…すごく恥ずかしいこと……言った?



「っ――、!」

「お…、真っ赤」



冬獅郎は、俺のものなのに
誰にも渡したくない
冬獅郎の恋人は俺なのに

ついさっきこんなことを、口に出した気がする
自覚した瞬間、顔から火が出たんじゃないかという勢いで頬が熱くなった



「計り知れないくらい可愛いな…本当に」

「かっ、可愛い言うな!」

「無理、無茶」

「うわぁっ」

「こんな可愛い奴、他にいねぇよ」



突然抱き締められて体が傾ぐ
びっくりしたけど、冬獅郎の鼓動がすぐ近くに聞こえて
心の中にあった澱みが、溶かされ消えていく感じがした



「一護」

「…何?」

「好きだ、…俺の隣はお前以外に考えられねぇよ」

「……ほんと?」

「ああ」



そう答える翡翠の瞳に嘘の一辺もなくて
でも、少しだけ、ほんの少しだけまだ不安だから



「じゃあ…」



耳横でポツリと呟いたお願いに冬獅郎は笑顔で頷いて
ゆっくり閉じた瞳、感覚だけの世界に唇を通して感じたのは安らぐ温度



「……愛してる」



唇が離れて、落ちてきた鼓膜を震わせる声
返事の代わりにもう一度だけ重ねあわせて
そのまま冬獅郎の腕の中に、さらに赤くなってしまった顔を隠した
頭上から、くすくすと笑い声が聞こえてきたけど恥ずかしいから無視をして
ぎゅっと目を閉じて、体温を感じる



「(俺の、俺だけの、…)」



大好きすぎる温もりに身を委ねて、生きていきたい
だから、これからも、俺を隣に居させてください














































In the cage
(貴方の温もりと、優しさに)
(拐われて、囚われて)


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