☆パラレル小説〜嶽〜☆
□必ず戻ってくるから
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世は戦国時代。
様々な場所で戦が起こりつつ、城下の町並みは相変わらず活気に溢れている。
その中でも一際繁盛している、一軒の茶屋があった。
「隼人ちゃん!おだんご1つ〜。」
「こっちにも1つくれ〜。」
「今日も綺麗だねぇ♪」
客のほとんどが男、男、男。
そしてそれら全員が「隼人」という看板娘に釘付けである。
「一気に言うんじゃねぇよっ。少し間を空けろ間を!」
忙しそうにのれんから顔をのぞかせた噂の獄寺隼人。
眉間にしわをよせ、男口調ではあるが、何よりも皆が騒ぐだけあって容姿端麗である。
のれんの方に一同が顔をこぞって寄せる。
なかなか見ない銀色のしなやかな髪。
これまた珍しい翡翠色の瞳。
それらを生やす色白のきめこまかい肌。
まばたきをすれば長いまつげがなびく。
誰もが憂いたようなため息をこぼす。
この店の看板娘である彼女がいるときは、
客はひっきり無しに訪れ、彼女の姿を人目見ようと集まり、
少しでも親しくなろうと話しかけ、長居しようとだんごを買う者が後を絶たない。
彼女を町で知らない者はいないだろう。
そんな彼女に、これまたぞっこんな男が1人、いつものごとく店を訪れた。
「すんませ〜ん、だんご1つ、看板娘さんに運んでほしいなっ♪」
「あ、あれは!」
「城内最強の武士と謳われる、山本殿!」
軒先から満面の笑みで現れた彼は、真っ先に獄寺に注文する。
彼は将軍が絶大な信頼を寄せている武士。
ある戦では1000人斬りをやってのけたという逸話もある。
しかしその話の裏には、彼は心優しいゆえにその1000人も刀を鞘から抜かない状態で
ただ気絶させて倒したという話も伝えられている。
おまけに彼もまた人並み外れた容姿も持ち合わせており、
城内はもちろんのこと、女にはかなりの人気だ。
ただ、彼が「城下の茶屋の娘に骨抜きだ」という話も知られており、
彼に恋をしてはあきらめて涙を流す者もたくさんいる。
山本武には獄寺隼人しか見えていないのだ。
「おい、この店の状況でよくいけしゃしゃあと頼めたもんだな。
残念ながら当分だんごはてめぇにいかねぇよ!」
時間稼ぎのだんごを頼んだまま食べようとしない客をせかしながら、
入口の立つ山本をにらんで言う獄寺。
山本は相変わらずニコニコと微笑んでいる。
「ん〜?別にその方がいいかもな。だって長くここにいれるだろ?」
「だんごの匂いをそんなに味わってたいってか?」
「はは、それもあるかもしんねぇけどさ。」
検討違いば隼人の言葉に、面白そうに笑う山本。
そう言いながらもさりげなく店の中にいる怪しい輩を威圧する。
まるで「隼人に妙な事をしたら許さねぇ(黒)」
とでも言うように。
その空気を感じ取ってか、さっきまで店に群がっていた者たちは、
恐ろしい殺気を放つ山本に気おされつつ店をそろりと去って行く。
それに唯一気づいていない当の獄寺隼人は、「また来いよ〜。」と見送る。
その言葉がなくとも、彼らはきっとまたここに来るだろう。
「運がいいな山本、ちょうどみんな腹でも壊したらしいぞ?」
「そんじゃあだんごもらおっかな♪」
「お待ちどおさま〜。」
先ほどの客の注文で作っていただんごが出される。
だんごを置くときになびく銀糸に、山本は見とれていた。
長いまつげが影を作っている。
「それにしても武士のくせに暇人だな。噂は実は嘘で、本当は弱っちいんじゃねぇのか?」
「ちょっ、そんなことねぇって!ちゃんと稽古だってしてるんだぜ!?」
腰に掛けている刀を証明するように見せる。
それでもどこか疑っているような隼人に、苦笑いをしながら話を続ける。
「その証拠に、ここにいる時間はいつも決まってるだろ?」
「…まぁ、確かに。」
腕組みをしながら、考え込むように上を見る。
山本はとりあえず、だんごを一口かじった。
それに気づいてじっと見てくる隼人に、
「やっぱりここのだんごはおいしいな」と返す。
隼人は満足そうに微笑んで見せた。