☆パラレル小説〜旦〜☆

□携帯恋愛
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哀しい 悲しい別れも、いつの日かは




 『想い出』として二人の記憶の中に残る。







そう、今は悲しいことかもしれないけど、 こうしてちゃんとお前の声が聞けているということを大切に。







…だから、泣かないよ?


我儘なんか、言わないよ…?


















「じゃあ、今は安定してんだ。」


『あぁ、なんとかな。』





…電話越しから伝わる心地いいテノールと鼓動は、昔から何も変わってない。週に一度掛ってくる電話は心の底から嬉しくて、愛おしいのに…電話が終わった後にくるのはただの胸苦しさ…。




「よかったな、本当に夢が叶って。」


『あぁ…、ここまで来れたのは一護のお陰だな。』







…冬獅郎が街を出ると聞いた時、何かが俺の中で崩れて、気付いた時には笑っていた。


俺に、泣く権利なんてなかったから。
「行かないでくれ」なんて、そんなわがまま、ただの幼馴染が言って許されることじゃないから。


だから、流れそうな涙を堪えて笑った。
否、笑えていなかっただろう。冬獅郎は優しいから、こんな酷い俺を見て見ぬ振りをしてくれたに違いない。



冬獅郎が出て行く日も、俺は最後まで泣かなかった。冬獅郎の母親や、父親…。その他俺の知らない友人たちの嗚咽が聞こえる中、俺はただひたすらに笑顔を作ることに専念していた。ベルが鳴り響く駅のホームで、俺は冬獅郎の乗った電車を小さくなるまで見届けた。ただただ、胸を締め付ける“何か”を振り払うように……。





『…ちご、一護…!』


「えっ?あ、何?」


『大丈夫か?疲れてんだったら切ってもいいんだぞ?』





…自分だって疲れてるくせに、冬獅郎はいつも自分より俺のことを心配する。



「大丈夫だよ。冬獅郎の話聞いてんのに寝るわけねぇだろ?」


『…そうか。』




流れる沈黙。重たい空気。外を通る車の音が受話器の反対の耳に届く。時計を見ると日付はあっという間に変わっていた。



「結構話したな。冬獅郎明日早いんだろ?今日はもういいから身体休めてくれ。」




こうしてまた冬獅郎の声が聞けるのは来週…。冬獅郎から電話が来ない日はあんなに長く感じるのに、どうしてこんな時だけ時の経過は早いのだろう…。



『そうだな、ありがとな一護。』



「ん、じゃあまたな…。」



『……あぁ、おやすみ。』







俺と冬獅郎を繋ぐ、唯一の手段の携帯…。
ディスプレイには『切断』の文字が明るく部屋を照らす…。





その文字がまるで二人の関係までもを現しているようで、思わず目を逸らした。
……その勢いで頬に涙が流れたことは、閉じた瞼によって幻へと変わっていった―…
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