☆パラレル小説〜嶽〜☆

□必ず戻ってくるから
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普段ではなかなか見せてくれない微笑みは、この店をほめれば見せてくれる。
山本は隼人のすること一つ一つに目を奪われる。
その容姿はもちろんだが、何よりもふとみせるその微笑みに、
剣を見つめている視線が自分の実力を認めていることに、ほれ込んだのだ。

そして、心の中でいつも問う。
「隼人は、自分のことをどう思っているのだろうか。」と。

相当鈍感な彼女は、この店にくる者たちが自分に好意を寄せていることに
気づいているかどうかすら怪しい。
あれだけ行動や言動に出ていれば普通にわかるのだが、
彼女にはどれも伝わっていないようだ。

しかしだからといって、はっきり「好きだ」と言う者もいない。
声をかけ、近寄ってくる隼人を目の前にすると、誰もがどもってしまうのだ。
山本はどもる事はないのだが、どうしても自分の気持ちをはっきりと言葉にはできず、
ボーダーラインを踏み越えることができないでいた。


現実、隼人は山本に対しては他の客とはどことなく接し方が違う。
態度が他のものよりもさらによそよそしくなく、くだけているし、
何より山本との会話の中ではよく笑う…といっても極まれに、だが。

それは、隼人が山本に対して他の者とは違うものを感じていることを示している。
けれど、それがイコール「好き」というのは安易な考えだと山本は何度も考え直す。
自分が武士として名を上げているからとか、単に自分と気が合うだけだとか。
だんごのことをよくほめているからかもしれない。
他の客は隼人の容姿ばからほめるから、それを冗談だと受け流して。


毎度この店に来て隼人を眺めては、そのことばかり考えてだんごをほおばる。
そしてその度に隼人の中に好きなところを見つけ、入れ込んでゆくのだ。


「…?山本?どーしたんだ、お前。」


「…っんごっ!!!?」


考え込んでいる山本の顔を覗き込む隼人。
急に近づいてきたドアップの顔に、山本はだんごを詰まらせた。


「ごほっ!ごほっ!」


「おいっ!ま、待ってろ!茶、持ってきてやる!!」


目の前であたふたと慌てた後、のれんの奥に引っ込む。
胸のあたりを叩いてもちを流そうとしながら、隼人の後ろ姿をみやった。




このままでいい、なんて思わない。


いつか、いつか絶対に。



ゆるがない決意が目に宿っていた。
山本は心の中で、しっかりと誓った。
この気持ちを必ず隼人に伝えると。


その想いが、たとえ叶わなくとも。

























そんな時に、町に戦の知らせが入ったのだった。


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