Dear....
□ぼくとなつやすみ。
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「ねぇ、海堂くん」
「…何スか」
「もう夏だね、暑いね」
蝉がじわじわと鳴いている。
真昼間の公園でジョギングをしていたらばったりととある人に出くわした。
部活のマネージャーだ。
それでいて尚且つ、色々な意味で有名な先輩でもある。
「海堂くん?」
心臓がばくばくと鳴っている。
きっとこれは今まで走っていた所為だ。
「―あ、あぁ、そうッスね…。
でも」
「心頭滅却すれば火もまた涼し、ですか」
自分が言おうとした言葉があっという間に浚われて。
ちょっと悔しくなっていつものように息を吐くと、彼女は口角を揚げてにまにまと何かを含んだように笑った。
「…何スか」
先ほどと同じように尋ねると、それでも彼女は表情を崩さずに。
「―うーん、昨日、大石くんと手塚くんから聞いたことを思い出しちゃってね」
「…え?」
「そのうちにわかるよ。それじゃ、練習、頑張ってね!」
最後に笑顔を振りまいて、白いスカートを翻し、颯爽と走り去っていった。
残されたのは変な緊張と、無駄な高揚感。
(―なんなんだ、一体)
振り切るように自分も走り出す。
高鳴る鼓動を抑えるために。
振り切るように走り出した。
高鳴る鼓動が走っている所為であると思い込むために。
end.