霧の城
□昔語り
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森に囲まれた小さな村。
ゼベット村を表すのに必要な言葉は、たったこれだけ。
特産物があるわけでも、街道筋にあるわけでもない村に、余所者が訪れることはまれで、三十人に満たない村民は、肩を寄せ合うように助け合って生きている。
春は村を囲む森に分け入り薬草を摘み、夏は森を流れる川に罠を仕掛け魚を取る。
秋は森を開いた小さな畑の麦を刈り、キノコや木の実といった森の恵みを享受する。
冬は狩りを行って、蓄えた食糧に彩りをそえる。
それが村に生まれた者の生活であり人生だ。
そこには自然の厳しさと淡々と続く生があり、それ以上の刺激は結婚や子の誕生、病気や死といった問題に立ち向かう人々には不必要なものだった。