俺アリス

□貴方の嘘は心地がいい
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普段お世話になってるお礼と言われて、俺はやまねに膝枕されていた。


なぜお礼が膝枕になるのかは謎だがされるがままになっていた。


やまね「真琴、僕の枕はどう?」

真琴「固い」


男なんだから当たり前だと思うけど、やまねの膝枕超固い。


そして顔も超近い。


下手したらキスするんじゃないのだろうか。


少し不安になる。


今されたら抵抗できないしな。


やまね「ふふ、それはちょっと我慢してほしいな」


やまねはそんな俺の心配なんて気にもせず、俺の頭をなでる。


穏やかな顔をしてなでるやまねの顔を見て、やまねでもこんな顔をするんだと思っていた。


やまねに対して凄く失礼な気もするが、心の声というのは自分に正直なものだ。


真琴「ところで、やまねは疲れないのか?」


これ以上失礼な事を考える前にやまねのいいところを見つけよう。


コイツだっていつも変態なわけじゃないのだから。


やまね「無抵抗の真琴の体を近くに感じられるのに疲れるわけないじゃないか」


あ、どうやってもこの変態は直りそうにもないな。


変なところで納得してしまった。


真琴「…」


俺はやまねから視線をそらしてこの世界を見る。


青い空はこの世界が平和だと告げているように穏やかで、ここが本の世界だと忘れてしまいそうだ。


でも、本の世界だからこんなに綺麗に見えるのかもしれない。


まるで、夢を見ているようだ。


けれど、夢ならどんなに良かったのだろう。


やまね「…大丈夫だよ。これは夢だから」


やまねは俺の心を見透かしたように言う。


なでている手は一向に止まなくて、その手の温度に胸を締め付けられる。


真琴「夢…、じゃないだろ」


来た時はこれが夢じゃないのかと何度も何度も確認した。


けれど、変えようのない現実で俺はここで生きているのだと悟った。


やまねは俺の頭をなでていた手の反対の手で俺の視界を覆う。


やまね「これは夢だよ。真琴が見ている楽しい夢」


信じられないほど穏やかな声で、やまねは言う。



真琴「…モンスターに襲われるのにか?」

やまね「その代わりに君を守る為に僕がいるよ。ほら、夢だよ」

真琴「…心臓が動くのに?」

やまね「…うん。夢。これは夢なんだよ」


やまねの心遣いにつんと目頭が熱くなる。



真琴「こんなに苦しいのに、夢なのか?」

やまね「うん。どんなに苦しくてもこれは夢だよ」

真琴「…お前も、俺の作った幻なのか?」

やまね「ちがうよ。真琴に作られた理想的な彼氏」


きっぱりと断言する声は優しくて、それでいて切なくて、胸がとても痛い。


真琴「いくら夢でも彼女がよかったな」


ポツリと言った言葉は半分以上が冗談だ。


別に彼女じゃなくても、やまね自身ならそれで良い。


やまね「真琴の為なら女装ぐらいしてあげるよ」


本気か嘘かもわからない言葉に無性に笑いがこみ上げる。


真琴「…へへ」


やまねに覆われていた手を外して、俺はやまねの方を向く。


やまねは相変わらず穏やかな顔のままで、俺の頭をなでている。


子供をあやすみたいに、優しく丁寧に。


真琴「やまね。俺は平気だよ。だってこれは夢なんだろ?」


やまねが笑った気がした。


(お前の優しい嘘に俺は溺れる事にするよ)
 

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