novel
□loveとlike
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「好き」
その言葉に、私の思考が停止した。
駅から徒歩10分、都内の築浅賃貸マンション。
1Ꮶの狭いこの部屋に、私と、彼の2人だけ。
目の前にはゲームのついた液晶テレビ。
お互いの手には小さなコントローラー。
見つめた先に、真剣な顔。
「好きなんだ」
もう一度、その口から伝えられる言葉。
彼、深澤辰哉は国民的アイドルで。
ダンスが上手で。
喋りも上手で。
ゲームも上手で。
私の、幼馴染で。
大人になった今もこうして、仲が良くて。
「…なんか、言ってよ」
口を尖らせ拗ねたようなこの顔も、昔から変わらない。
そんな彼が、私のことを好きだと言う。
「いつ、から」
「ずっと前から」
「ずっと…?」
「ずっと」
オウム返しで頷く彼から、視線を外す。
もちろん嫌いな訳ではない。
むしろ好きな部類だと思う。
けどその『好き』は、『like』の方で。
彼の言う『love』の『好き』とは違うもの。
「なまえが俺のことそう見てなかったのはわかってる。けどごめん…、俺も、本当は伝える気なかったんだけど」
彼が手にしていたコントローラーは、いつの間にかテーブルに置かれていた。
私も同じように、テーブルに置く。
もしここで、私が「NO」と言ったら。
この関係は、今日で終わってしまうのだろうか。
それとも今まで通りで、いられるのだろうか…。
「私は、」
必死に絞り出した声は、少し震えてしまった。
この関係が変わることが怖い。
1歩を踏み出すのが、怖い。
「わたし…」
「嫌ならいいんだ。そうしたら今まで通り、こうして時々ゲームして他愛ない話をしながら「違くて」
嫌じゃない。
嫌なわけない。
ああ、もしかして。
わたしの『好き』は、とっくに…。
「私も、好き…たつのことが、好き」
『like』から、『love』に変わっていたんだ。