novel

□レンズ越しに溺れる
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「大介」
「んー?」

ベッドに寝転びタブレットでアニメを見ているこの家の主は、目線はそのままに私の声に反応した。
詰めて詰めてと彼を壁際に押しのけ、私も同じように横になる。

「目、手術したのになんで未だにこれつけてるの?」

今ではすっかり必要なくなったはずのそれをするっと取ると、「取られた〜」と可愛らしい声を発する。
それでも視線はこちらを向く気配がない。

「伊達だよね、これ」

仰向けになって彼から取ったその眼鏡をかける。
けど視界に変化はない。

「おしゃれ?」
「んまぁそれもあるけどぉ」

アニメを見終わったらしい彼が、よいしょ、と私に馬乗りになった。
あ、悪い顔してる。

「癖っていうか、あると落ち着くっていうか」
「…そういう?」
「そういう」

綺麗な顔がゆっくりと私の顔に迫る。
けど。
あと数センチ、その距離でピタッと彼の動きが止まった。

「キス、されると思った?」
「…思った」
「してほしい?」
「いじわる」

はは、と彼が軽く笑ったあと、柔らかな唇が重なる。
ぬるりと入ってくるその舌に、口の中がビリビリと痺れて。
余計なことなんて、一切考えさせないというように。

「なまえの眼鏡エロい…好き」

レンズ越しに見るあなたの方が、よっぽど色っぽいよ。
ふわふわとする頭の中で、そう返す。

「気持ちよさそーな顔してんね」
「そんな、こと、」

喋る暇すら与えられない。
苦しい。
なんの話をしていたんだっけ…。
まぁでも、なんでもいいか。
もう、どうでもいい。

「大介、もっと」

あなたに、溺れさせて。

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