novel
□どっちが好き?
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「やっぱライブのふっかめちゃくちゃかっこいいわ……」
32インチの液晶テレビに映るのは、キラキラと輝きを放ちながら歌う彼。
もうこのライブDVDも何度見ただろう。
「あ〜、ファンサもらいた〜い」
「いやお嬢さん。本人いますけど?隣見てみ?」
ちょいちょいと肩を叩くこの人が、このテレビの中の人と同一人物だと到底思えない。
正直ちょっと顔のいいおじさ……、
「すとーっぷストップ。今めちゃめちゃ失礼なこと考えたでしょ、ねぇ?俺まだピチピチだよ?ピッチピチだからね?」
うーんうるさい…。
「だってライブと全然違う…」
「お仕事だからねぇ」
「生でこんなキラキラな辰哉見たことない…」
「ビジネス深澤だから」
「アイドルのふっかのが好き」
「ええ…」
本気でショックを受けたらしい。
ちょっと悪いことしたかな…。
いやでも別にオフな辰哉も嫌いじゃないっていうか、嫌いだったらそもそも付き合ってないっていうか。
「ま、まぁまぁ元気出してよ」
「無理…ふかざぁさん傷付いた…立ち直れない…」
「家にいる辰哉が嫌いな訳じゃないって」
「でもビジネス深澤のがなまえは好きなんでしょ…」
「いやぁ…まぁ…」
「はいもう深澤さん拗ねたーもうなまえ嫌いー」
ソファーに体育座りをしてフードを被り、おまけにフードの紐をキュッと絞った。
子どもか…。
「おーい辰哉〜」
「…」
「たーつやくん」
「…」
「たぁくん」
「…」
あれ、今回は手強い。
いつもこう呼んだ3回目には「しょーがねーなー」ってニヤニヤしながら終わるのに。
そんなにビジネス深澤に負けたのが嫌なのか…自分なのに…。
「ごめんって。一緒にいる時の辰哉も好きだよ」
「…」
「ゲームも上手だし、クレーンゲームでぬいぐるみも取ってくれるじゃん。面白いし。だからもう拗ねるのやめよ?」
「…」
えー…、本気じゃん…。
どうしたもんかな…。
「辰哉」
「…」
「ね、フード開けて」
「…やだ」
「ちゅー、できないよ」
そう言うと、ゆっくりと窄まってたフードが開いていく。
やっと顔が見えた辰哉は、本気で拗ねた顔をしていた。
「怒ってる?」
「拗ねてる」
「ごめんて」
「ちゅーしてくれんなら許す」
「ふふ、単純」
柔らかな唇をそっと重ねる。
そうしたら辰哉の両手が、まるで逃さないとでもいうように私の頬を包んで。
「今だったら、どっちの俺が好き?」
「今、かな」
「いい子」
どっちだって、私は変わらずあなたが好きだよ。
だから、
「いつまでも、今のまま変わらない辰哉でいて」