novel

□嫉妬
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「今日宮田くんがさー、」
「宮田くんがね〜」
「今度宮田くんと」

ゲームのYouTube撮影をした日は、決まって『宮田くん』の名前が出てくる。
それはもう彼女が彼氏の話を永遠とするように。

「付き合ってるの?」

そう聞けば、テーブルの対面に座る彼はくりくりと丸い目を私に向けて首を傾げる。

「なまえと付き合ってる…と俺は思ってるけど…?」
「違う、宮田くんと」

ああ、なんだビックリした。
そう言って安堵の表情をする彼に、で?付き合ってるの?と同じ質問を繰り返す。

「宮田くんは師匠だよ」
「師弟でも普通あんなに名前出ないよ」

そうかな〜、と腕組む彼。
前に観た動画で、大介が同じグループのふっかさんにめちゃめちゃ嫉妬していた。
しかも割と本気の。
あれはもう、彼氏が他の女の子と話してるのを目撃した彼女だ。

「ふっかさん可哀想」
「だってあいつ俺の許可なしで宮田くんに触るから〜」
「そういうとこ」

完全に浮気絶許の彼女じゃん。
あれ、絶許って今死語なんだっけ。

「嫉妬深い彼女だよ、それ」
「えー」

口を尖らせる大介は、女の私より女の子っぽいと感じる。
うーん複雑。

「なまえはさ、嫉妬してくれないの?」
「誰に?」
「宮田くん」

宮田くんに嫉妬?
嫉妬…は…、

「しない、なぁ」
「えー!なんで!」

急な大声にビックリした。
そんな驚かなくても。

「なんでって…大介が私を好きなのわかってるし」
「お?」
「私以外に行かないこともわかってるし」
「おお?」
「宮田くんへのそれが恋とかじゃなく尊敬だって、当たり前だけど理解してるし」
「おおお?」

うーん、言葉にすると難しい。
まぁとにかく。

「嫉妬する意味がない」
「んんん、好きー!」
「え、ちょ、わっ」

キラキラした目で近付いてきたと思えば、これまた大声で叫びながら飛び付いてきた。
その勢いで床に押し倒される。
背中が痛い…。

「飛び付くの禁止…」
「だってめちゃめちゃ嬉しい!嫉妬してくれないんだってちょっと寂しかったけど、ちゃんと俺をわかった上でだったしマジ嬉しい!好き!」
「うんうん、私も好きよー」

どいてどいてー、と頭をポンポンしても、一向に動く気配がない。
動けない…。

「だい、」
「マジで嬉しい…。ちゃんと、俺を見てくれてる…」
「嫉妬、して欲しかった?」
「んーん、もう大丈夫。なまえの愛が十分伝わったし。なんか、めちゃめちゃ満たされた」
「それはよかった」

ピンクの癖っけを優しく撫でる。
大介の匂い。
男性らしい体。
ああ、私も大概。

「好きだよ」
「ん、俺も」

私達の間に、嫉妬はいらない。

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