novel

□私だけの
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「愛してる」

なんの脈絡もなく、彼は私にそう言った。
突然のことに驚いて彼を見れば、いつも通りの笑顔でこちらを見ている。

「どしたの、突然?」

そう聞けば、

「言いたくなっただけ」

と、朗らかな声が返ってきた。
変な大介。
小首を傾げたまま彼を見続ければ、彼もまた小首を傾げる。
遊ばれてる?

「こっちおいで」

ベッドの上で両手を広げる大介。
言われた通りその腕の中に飛び込めば、ぎゅーっと抱きしめられる。

「甘えんぼさん?」
「そ」
「そっかぁ」
「そだよぉ」

中身のない会話。
私を抱きしめたまま後ろに倒れる彼。
もちろん私の全体重が大介へとかかる。

「わ、わ、大介潰れちゃう」
「だいじょぶ、なまえ軽いから」

そう言って解放はしてくれない。
私は大介が苦しくないかと気が気じゃないんだけど…。

「…好きになって、ごめんね」

これまた突然の彼の言葉に驚いて。
声の主の顔を見れば、悲しそうな。
辛そうな、顔で。

「…どうしたの」
「俺… なまえに無理させてないかなって」

珍しい、彼の弱った声。
悲しそうな顔。
ああ、ずっと。
ずっと、不安だったのかな。

「俺のせいで…しんどくないかなって」
「大丈夫だよ。だから、」

だからもう、そんな顔しないで。
ゴロンと彼の横に転がって、今度は私が抱きしめる。
それでもまるで、まだ足りないとでも言うように。
一体になってしまうんじゃないかってくらい。
抱きしめ返してきて。
それが、愛おしくて。

「私は好きになってよかったよ」
「うん」
「ファンの子たちが見れない大介が見れる」
「うん」
「大介がいつも一緒にいてくれる」
「うん」
「だから私、無理もしてないししんどくもないよ」
「うん…」

子どもみたい、なんて。
そう言ったらあなたは、怒るかな。

「弱った大介も可愛いね」
「うん」

その姿が見られるのも、私の特権。
だから。
抱え込まなくったって、いいんだよ。

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