novel

□さよなら初恋
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「私ね、結婚するんだ」

久しぶりに会った彼女は、アイスカフェラテをクルクルとかき混ぜながらそう言った。
平日の昼下がり。
店内にいる人は少ない。
目の前に置かれている俺のグラスが、汗をかく。

「そう、なんだ」
「うん」

会ったときから気付いていた、左手のシルバー。
ただ聞く勇気が出なくて。

「おめでとう」
「ありがと」

声は、震えていないだろうか。
ちゃんといつも通りの笑顔が、出来ているだろうか。

「どんな人…?」
「んー…、優しくてね、凄くいい人だよ」

はにかみながらそう答える彼女を、俺は直視することができなかった。
小さい頃から一緒だった幼馴染み。
引っ込み思案だった俺に、いつも笑顔で接してくれた。
別々の高校だったから、中学を卒業したあとは自然と疎遠になったけど。
たまたま地元に帰ったとき再会して、それからよく連絡を取るようになって。
今日だって…。

「大介にはちゃんと、自分で報告したくって」

俺は。
俺は、聞きたくなんてなかったよ。
君のそんな幸せそうな顔も。
俺の知らない男とのことも。

「結婚式ね、来年の春に挙げるの」
「そう…」
「大介にも、来れたら来てほしいなって」

行きたくない。
なまえが知らない男とキスするところなんて、見たくない。
だって俺は、君が。

「ね、大す「俺さ」

こんなに。

「なまえのこと好き」

君を、想っているのに。
そんな男よりずっと。
俺はなまえが、好きなのに。

「…うん。知ってた」

寂しげに微笑む彼女。
ああ、あの時。
俺にもう少しの、勇気があれば。

「私も、大介が好きだった」

君の近くに、いられたのに。

「俺が幸せにしてあげたかったなぁ…」
「大介といたら、退屈しないもんね」
「させないよ。絶対」

だから今からでも、なんて。
そんなことを言ったって。
君は俺を選ばない。
俺の手を、取りはしない。

「お幸せに」
「うん、ありがとう」

さよなら、俺の初恋。

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