□愛を惜しみなく与う
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    を 惜しみなく 与う




いつもの時間と いつもの光景

いつからか慣れてしまった道を少しゆっくりと歩く。


ここ最近は第二の我が家とも呼べる万事屋に行くのも、
段々と気恥ずかしさと少しの苦しみを覚えるようになってしまった。


そう、

最近なのだ。



この間までは朝食は何にしようだの、
今日はあそこのスーパーが特売だ…だの、

我ながら主婦みたいな事を考えていた。

そして怠惰に朝を送る二人を叩き起こして、
三人揃ってとても豪華とは言えない朝食を迎える。



ありきたりな毎日の朝が一変して

ドキドキと胸が高鳴る
ギュッとわしずかまれたような痛み

そんな心臓に悪い朝に変わってしまったのだ。




色々と考えているうちに
着いた玄関前。


「…おはよう、ございまーす」



悩んでいても仕方ないので
控えめな挨拶と共に開けて中に入る。

ピッタリと草履を揃えることも忘れずに。

って、あの二人の靴バラバラじゃないか、まったく。
神楽ちゃんが銀さんの悪い所も吸収してしまうので困ったものだ。


と、いつもなら神楽が寝ている押入れに向かう所を和室へ。

二人の関係が変わってからは
「最初に起こしに来い」と言われている。



初めは訳もわからず
言葉通りに銀さんから起こしにいくと、

布団に引き込まれて抱きしめられた。


少し抱き合った後に開放されて
一日が始まるのだ。



そんな恥ずかしくも嬉しい朝の日課を思い出し、少し顔を赤くしながらも中に入る。

すると、予想通り銀髪のマダオが。
まだ起きてはいないようで吐息が聞こえてくる。


そしていつもの如く、寝相が悪い。
寝巻きも肌蹴て布団もくしゃっとなっている。

今日は良い天気だし、
布団も干せるかな…



起こさないように近づいて布団の側に座る。
起きる気配はない。



しばらくの間、じっくり見てみる。

やっぱり…
かっこいいんだよな、この人


本当はじっくりと観察しなくても
割りとかっこよく、モテる顔立ちなのだが(割りと、ね)
普段のだらしない態度と言動を知っている人達にはそんな印象も薄れるのだろう。



開いた胸元からは色気が漂う

整った目鼻立ちに
朝日に照らされキラキラと光る銀色

閉じられている瞳には髪と同じ色の綺麗な睫毛



「なんで、僕なんだろう」

俯いて、零れてしまったため息と本音。
そんなこと本人を前にして聞けないなんて女々しいやつだと思う。


くそっ
朝からネガティブになってたまるもんかッ


少し涙目になりつつも勢い良く顔を上げる。

その瞬間に

バチッと音が鳴るかのように真っ赤な瞳と目が合う。


「…オマエが、いいんだろ」


近づいてきた顔が

朝では見たこともないぐらいの真剣な瞳で
熱っぽい唇にくらくらして


荒々しい息と

「銀さ、ん」

と呼ぶ事しか出来なくなった。



落ち着いていく呼吸
取り戻してきた思考回路


ごちゃごちゃと考えていたことも、
あっさり解決されてしまった事に気づいた。


「おはよ、新ちゃん」


抱き込まれた耳の側で甘く
息を吹き込まれながら言われると

また心を掻き乱されてしまって。



「…おはよう、ございます」


律儀に挨拶しか返せなくなってしまった。



もうなんだか幸せで どうでもよくて




甘い匂いをいっぱいに吸い込み



噛みしめるように


ぎゅっと抱きつき返した。





end.

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