他にも書いてみた

□ジキニンキ
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僕は唯、キミが微笑む顔を見て居たかっただけなんだ。だから今、此処に居る事を僕は後悔なんかして居無い。
僕を罪人と云ったヒト達は僕に斯う訊ねた。
『何故殺した?』
そんなもの、最初から答えは決まって居た。
『喜んで欲しかっただけ。』
僕はキミの為だけに、沢山のヒトを殺した。僕はキミを喪いたくは無かった。キミは水とヒト以外、口にする事が出来無かったから。
最初は僕の両親だった。キミは血の一滴も残さず、微笑んで僕に喪失感よりも大きな歓びを与えた。
其れが何よりも嬉しかったから、僕は友人、隣人、果ては赤の他人までをも此の手に掛けて、キミに捧げた。
其の度にキミは、可愛らしい笑顔を僕に与え、僕は狂喜した。
僕はキミが微笑むのを見たかっただけなのに、或日突然、警察とか云うヒト達が来て、僕からキミを、キミから僕を奪ってしまった。
彼れから何年の月日が経っただろう。僕は今、死刑台の電気椅子の上に居る。頭には何かが被せられて、何も見え無い、筈だった。でも僕には見えるのだ。彼の頃と何ら変わら無い、キミの姿が。有り得無い筈なんだ。水とヒト以外、口にする事が出来無いキミが今、此の世界に存在し続けられる筈が無いのだ。
執行の準備が整い、僕は最後に、キミに訊ねた。出逢った時から、ずっと疑問に思って居た、答えは薄々知って居ても、如何しても訊け無かった疑問。
『如何してキミは、僕を殺して食べ無かったの?』
僕の言葉に、キミは軽く首を傾げると、僕の頬にそっと触れ、微笑んで斯う云った。
『アナタを喪いたく無かったの。』
僕には其の言葉だけで充分だった。
僕は此の躯に雷が走った瞬間、眩しい光を見た。歓びに溢れた、希望の光。少なくとも僕には然う思えた。其処には確かに、満面の笑顔のキミが居たから。終

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