小話

□俺達の日常。
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【貧乏揺すり】

「……ねぇ、キメラくん。うるさいんだけど」

 部屋の隅の椅子に座り、せわしなく足を上下左右に動かすキメラくんを俺は軽く睨んだ。
 服の擦れる音や、靴と床がぶつかり合う音。気が散るったらないね。

「……は?」
「うわーん! 櫻ぁーっ、キメラくんが殺し屋のような目で睨んでくるよぉ〜」

 睨み返された俺はあまりの恐怖に、一番近くにいたリーダー的存在、お母さん的存在の櫻の胸に飛込んだ。

「あー、よしよし。何そんなにイライラしてるんだ?」

 櫻が俺の頭を撫でながらキメラくんに聞く。

「禁煙中なんだって」

 目の下に隈を作って虚ろな目をしているキメラくんの代わりにタッちゃんが答える。

「禁煙〜!? ヘビースモーカーのキメラくんがか? 信じられへん……」

 それを聞いて丙が大げさに驚いてみせた。

「何で?」
「そんなに辛いならしなきゃいいのに」

 櫻と俺が心配そうに顔面蒼白のキメラくんを見る。

「……翔麻に、煙草吸う人なんて大嫌いって言われた」

 今にも死にそうな声でキメラくんが呟く。

「とまぁ?? 誰やそれ。もしかしてコレか〜?」

 小指を立てて、丙がふざけたように言った。

「キメラくんの溺愛する一人娘、翔麻ちゃん。もうすぐ4歳」

 タッちゃんがキメラくんの代わりに答えた。

「……」

 っていうか爆弾発言。

「娘ぇ〜!!?」
「ってことはキメラくん妻子持ち!?」
「4歳って結構でかくね!?」

 今まで全然全くちっとも気付かなかった俺達は、自分でも出しすぎかなと思う程の大声で叫びまくった。

「あれ、知らなかった? 俺的には、こんな他人を寄せ付けない、自分以外誰も信じませんオーラを出してるキメラくんがかなりの親バカだってことに驚いてほしかったんだけどなぁ」

 タッちゃんがしみじみと言う。
 俺達は馬鹿みたいに騒ぐ。
 キメラくんはとっくに限界を超え、廃人と化していた。

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大パニック。
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