小話
□俺達の日常。
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【信じる信じないはご自由に】
「俺、ライブ中はどこも見てないんだけどな……」
部屋の隅で手紙を読んでいた櫻がふと呟いた。
「何? ファンの子からの手紙?」
それを聞いていたタツヤが興味深そうに寄ってくる。
「ああ。好きって言ってくれるのは嬉しいんだけどさ。『ライブ中ずっと私のこと見てましたよね』って書かれても困るっていうか……」
そう言ってピンク色の封筒に入った手紙を見ながら苦笑いした。
「タッちゃんてさ、ライブ中どこ見てる?」
一通り手紙を読み終えた櫻が、便箋を封筒にしまいながらタツヤに問いかける。
「俺? 俺は最前の女の子一人選んでずっと見つめてるよ」
「え、マジ?」
当たり前だと言わんばかりのその意外な答えに、櫻は目を丸くした。
「うん。だってさ、そのコきっと俺にずっと見つめられてた、とか言うでしょ? でもそんなの周りの皆はただの妄想だとしか思わないし、むしろ叩かれたりするかもしれない。そう考えると逆に可哀想じゃない?」
タツヤは爽やかな笑みを多少黒く染め、楽しそうに言った。
「タッちゃん……ファンの子達までいじめるのやめろよ……」
上機嫌なタツヤを見ながら、櫻はライブ中は楽器を弾くことだけに集中しようと心に決めた。
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好きだからこそいじめたいんだよ。