小話
□俺達の日常。
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【ヴィジュアル系裏事情】
ついに、この日がやって来てしまった。
今日のライブはただの前座だけど、俺達売れないヴィジュアル系バンド、resonanceがいつもやってるような小さなライブハウスじゃなくて、お客さんも沢山来てる。
そしてなんと、今日のメインは俺が敬愛してやまないバンド、[REQUIEM]様々なのだ!
もしヘマして空気をぶち壊したりなんかしたら……考えただけでも胃が痛い。
「蘭! ユウ! 気合い入れるぞっ!!」
俺はメンバーの蘭とユウに声をかけた。
「え?」
「って、悠長に何食ってんだよ!」
そうなのだ。こいつらときたら、もうすぐリハだってのに緊張感の欠片もない。
「スイカバー食べてるんだよ」
「マサトも食べる?」
そうそう、夏の風物詩、スイカバーを……って、
「ちっが〜〜う! 少しは緊張しろよ、お前ら!」
俺は拳を握り締めて二人を怒鳴りつけた。
「しかもスイカバーって……俺達ヴィジュアル系はミステリアスかつ生活感のなさがウリだろうが! んな庶民的な……」
「それはお前の偏見だろ」
俺の言葉を蘭が遮る。
「そうそう。大体、君が一番庶民的だしねー。うるさいし」
それに続けてユウも言う。
お前らが俺を怒らすようなボケかますから仕方ないだろ。それをうるさいとはなんだ。
「……いいか、よく聞け」
俺は怒りを押さえ付けて二人を見た。
「今日の主役は[REQUIEM]だぞ? 絶対失敗はできないんだ。だから……」
「おい、いつまで騒いでるんだ?もうリハ始まるぞ」
またしても俺の言葉を遮って、蘭が時計を指差して言った。
「ひ、人の話は最後まで……」
「ほら、早く行くよ。ちゃんとマサトの分のスイカバーも残しておいてあげるから」
「え、マジ? サンキュー……って、ちっが〜〜う!!」
本日何度目のつっこみだろうか。
先に楽屋のドアを開けて出ていく蘭とユウに向かって言い放った。
もしかしたらこいつらと組んだことは俺の人生において最大のミスだったのかもしれない。
いやいや、そんなことない! ……はずだ。
そんなことない、と思う。
そんなことない……よなぁ……?
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多分ね。