小話

□俺達の日常。
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【身近な物で】


「なあ皆、野菜貰ってくれへん?」

 大きな段ボール箱を持った丙が足でドアを開けて現れる。
 スタジオの中には打ち合わせと称して七並べに現を抜かす他のメンバー達がいた。

「野菜?」

 残り一枚のカードを持ったキメラが不思議そうに視線を向けた。

「丙って実家農家なんだよねー」

 一番にあがり、人のカードを見て周っていたキィスが丙の元へ駆け寄る。

「そうなんよ。いつも送られてくるんやけど一人じゃ食べきれへんねん」

 段ボールをその場に降ろし蓋を開けると、中にたくさんの野菜が入っていた。

「うわ、すっげー助かる」

 櫻も七並べを中断し、皆も丙の周りに集まった。

「キメラくん、家族にお土産できたね」
「ああ、きっと喜ぶな」
「好きなだけ貰っていいのか?」
「ええよええよ。まだ家に山ほどあんねん」
「野菜って……」

 両手に持ったキュウリを見ながら、どうしてもダイヤのジャックが出せずにご機嫌斜めだったタツヤが呟く。

「凶器にもなるよね」
「……は?」

 突拍子もない言葉に、四人は口を開けたまま固まった。

「例えばこのキュウリもさ、新鮮なのって茨並にトゲだらけじゃない? これを強
く握らせて思いきり引っ張ったら……」
「痛い痛い、痛いよタッちゃん!」
「掌血まみれに」
「アホ! 想像すんな耳塞げ!!」
「あとナスも」
「それ以上言うな!」
「試しにやってみよっか」
「分かったから! 七並べタッちゃんの勝ちでいいから!」

 今にも実行しそうなタツヤを慌てて四人がなだめる。鳥肌を立たせて悶絶している者までいた。

「今日はキュウリの酢の物にしよっと」

 今まで不機嫌だったことが嘘のように、タツヤの顔は清々しい程の笑顔だった。

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悔しかったんだね。
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