小話
□俺達の日常。
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【おばあちゃんの知恵袋】
「や〜、弾けた、弾けた! キメラくん、お茶取って〜」
「あいよ」
[REQUIEM]全国ツアー一日目終了。
俺は机の上にあったペットボトルをキィスに投げて渡した。
「さんきゅっ」
「キィちゃん、俺も一口!」
「俺も、俺も!」
「え〜、ヤだよ! 自分のあるじゃん」
「俺はキィちゃんのが飲みたいの〜」
「ぎゃーっ」
他のメンバー達もそれに群がる。中にはセクハラまがいな事をしている奴もいたが。
俺は自分のミネラルウォーターを確保しつつ、椅子に座って煙草に火を付けた。
「あのさ、俺ずっと思ってたんだけど」
キィスが俺の隣の椅子に腰掛け、死守した麦茶を飲みながら呟いた。
「今日誰かキツイ匂いの香水つけてない?」
メンバー全員を見回して言う。
「香水?」
「そ。言っちゃあなんだけど、鼻につく匂いがプンプンと」
「……あ」
ふと、ボーカルのタツヤが何かを思い出したかのように呟いた。
「もしかして……これかな」
そう言って首に巻いていた、衣装の一部である包帯を外し、中から何かを取り出した。
「……焼きネギ?」
包帯の内側にくるまっていた独特の匂いを放つ長い物体。
それはまさしく一本のネギだった。ご丁寧にも黒く焼け焦げた跡までついている。
「お前……何考えてんだよ」
異臭の元を見つめながら俺は言った。
「最近風邪気味で喉痛くってさ。ほら、喉はボーカルの命でしょ? 昔よくおばあちゃんがやってくれてたの思い出して。俺おばあちゃん子だったから」
言いながらタツヤはそれを元通り首に巻き直した。
「なぁーんだ、そうだったのか〜」
「いや、納得すんなよ」
驚く程軽いノリで答えるメンバー達。俺はつっこまずにはいられなかった。
俺は半ば呆れて彼らを見た。
たかがネギ一本で、話題はもう俺の手の届かない所まで言ってしまっているようだ。天然なのか、それとも俺を困らせようとしているだけなのか知らないが。
もっと激しくつっこむべきかどうか迷いながら、俺は煙草の煙と共に大きな溜め息をついた。
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ネギは本当にすごい効くよ。