小話
□俺達の日常。
6ページ/26ページ
【笑顔の下に隠された黒い顔】
所属バンドresonance。2*歳童貞。ボーカル担当マサト。
ただ今非常に緊張しておりまス。
「はい、これ差し入れ。皆で食べてね」
そう言って何やら品のいい紙袋を差し出したその人こそ、俺が世界で最も尊敬しているボーカリスト、[REQUIEM]のタツヤさんなのだ。
「あ、あっ、ありがとうございますっ!!」
俺はしどろもどろしながらそれを受け取った。
まさか俺達なんかのライブにタツヤさんに来て頂けるとは!
タツヤさんだけじゃない。同じ[REQUIEM]のキメラさんまでも後ろに控えている。
今まで生きてきて一番感激してる。
「良かったよ、ライブ。マサトくんっていい声してるね〜」
俺が何を話していいのか分からずオドオドしていると、タツヤさんが優しく笑いかけてくれた。
「そっ、そんなっ! とんでもないです。タツヤさんと比べたら……いやいや、比べるなんて恐れ多い!!」
「あはは。……君、可愛いしね」
タツヤさんは俺の髪に軽く触れると、顔を近づけ耳元で囁くように言った。
「へ……?」
な、なんだろう。今の違和感……
一瞬、背筋に何か冷たいものが走ったような。
「……タツヤ、そろそろ行かないと打ち合わせ始まるぞ」
黙って俺達の様子を見ていたキメラさんが、楽屋の時計を指差して言った。
「あ、本当だ。じゃあね、マサトくん。今度どこか遊びに行こうか……二人で」
楽屋のドアに手をかけて、恐ろしいほどの綺麗な笑顔で言うタツヤさん。
……またしても、寒気が。
「……少年、気を付けろよ」
タツヤさんが部屋から出ると、キメラさんが俺を哀れむような目で見ながら呟いた。
「え、何がですか?」
「……タツヤさ、魔性のゲイなんだよ」
せいぜい気をつけろよ、と言って楽屋を出る。
最後に顔だけ覗かせて、こう言い残していった。
「ついでに言うと、他人を苦しめることでしか快感を感じない、かなりのサディストだ」
じゃ、と片手を軽く上げてドアを閉めた。コツコツという乾いた足音が小さくなっていく。
取り残された俺は、紙袋を持ったまましばらくその場に凍りついていた。
**********
狙われちゃった。