短編・中編置き場
□待ち望み
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ぐらぐら揺れているのは僕の足場。
今までほとんど定まる事もなく。
僕はその揺れ続けてはハラハラと崩れてひどく脆い、まるで断崖絶壁に。いつも踵を空にはみ出させ、ギリギリのバランスでやっとの事で立ち。ヘラヘラとしながら『俺』として毎日を過ごしている。
『僕』は、自分の足場もグラついて。時には正常には程遠い様な精神状態の日もあるクセに。
「……キヨ」
目の前で大好きなキミが困ってまた今日も涙をハラハラと流していると。
「……」
なんの考えなし状態で、無条件にその小さくて愛おしい体を両腕で包み込みたい衝動に駆られて。
どうしても心で『おいで』と囁いてしまうんだ。
「……っ!!」
それでまた今日もポスりと僕の胸に飛び込んでくるキミを。ただ単に囲って抱きしめてしまうんだ。
……たまにその深い想いと重みが。
僕の足場をまた崩して共倒れしそうな時がある……。
もう辛いならいっそ、一緒にふらり。『楽』という逃げに堕ちてしまおうか……抱きしめながら時折思う日もあった。
僕の大切なヒト。
もう少し『俺』をこの世界で続けようという気にさせてくれるヒト……。
小さい背。
真っ黒な髪。
ただ俯き泣くだけのキミ。
胸で埋まっているまん丸の頭に、思わずアゴを下げて顔を埋めたくなる『俺』……。
やわらかな感触、甘くて優しい香り……彼女の持つ『全て』が愛しくてたまらない。
……なんで全部が僕のモノではないんだろう?
この一時だけの腕の中に居るだけじゃなくてずっと囲って閉じ込められたらどんなにステキか……。
考えるだけ虚しいこの空想をいったいどれだけしてきただろう……。うん、考えるのも面倒クサイくらいかな。
「……ごめんね」
と、腫れぼったい目で僕を見上げてキミのいつものセリフ。
「とーんでもないよ?」
口だけ軽く言う。
顔と心だけはやわらかにしてニコニコする。
たくさん利用したらいいのに。
もっと遠慮ナシに構わずいつでも来ればいいのに。
それでその内に僕から離れられなくなればいいのに。
……ははっ。
……虚しいな。そんで浅ましいや。
それじゃキミがたくさん傷つけばいいみたいじゃない?それはイヤかも……いや、どっちなんだろう?
毎度の空虚感。
押し寄せる独占欲。
それから単純に大切に想う気持ち……自分への嫌悪感。
全部ぐしゃぐしゃになって僕の立つ切り立った崖の下でドロドロの感情が波を立てて渦巻いている。
「キヨにはホント……何て言えばいいのか。どう感謝したらいいのか分からないくらいたくさん……ありがとう」
真っ赤な両目。
そこからツっと流れる雫を両手の指でゴシゴシ拭うキミ……。
「……ううん」
僕は一往復だけ首を横に振る。
貰っているのは僕の方。
真剣でこの世界に居過ぎると時々辛くなって。
間の抜けた様に『僕』と『俺』で交互に過ごしている僕が。
完全に逃げに走ったり。
簡単な『後退』をして堕ちようとする一瞬の誘惑に乗ろうとした時は。必ずキミが泣きながら現れて。僕の所へ走ってきて。
ギュッとその小さな両手を僕の背に回して掴んでくれるから。
それで堕ちそうな僕に必死でしがみ付いて落ちない様に支えてくれているんだ……。
キミが居なければ過ごしていけない様な。そんな僕の方がよっぽど多く助けられているんだよ……。
「それから……ごめっ」
言葉を紡ごうとしたキミの唇の動きを、「シィ」と言う様に指をそっと当てて止めて笑う僕……。
「次に言ったら今度はチュウしちゃうよ?」
……あ〜、なんて空々しい。
一瞬で顔全体まで両目と同じ色に染まるキミにまた一つ笑みを浮かべた僕……。
指を離して、笑顔でお見送り。大好きなあの人の元へと帰るキミをただ何も出来ない『オトモダチ』として手を振って。
……また体温が下がっていく。
2、3度、横に大きく振っていた右手の人差し指だけがまだ熱い。
僕の所にずっと居たら良いのに……。
帰らないで、戻らないで。
笑っている顔が何よりも好き……。
でもキミが泣き顔から笑顔に戻る時。
それは僕の所から離れていく夢の終わり……。
今日も足元も感情もグラつかせながらも立っている。
何だかんだ言いながら。実は僕はこの不安定さを愛している。
いつか止まる日が先か。
いつか堕ちる日が先なのか。
今の所まだ切っ先から動かず、相変わらずまたやって来るキミの姿を進歩もなく待っている……。
【終】
2006・12/6
暗い時に書いたので暗いです。
何がしたかったのか覚えてないです。
そんなぐだぐだクオリティー。すみません。