time goes by
□第一章
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私が彼と出会ったのは、私が小学四年生の時だった。
母の再婚相手とその息子さんとの食事会。
再婚相手となる男性とは面識があったが、私も母も息子さんに会うのはこれが初めてだった。
「はじめまして。高岡柊(たかおかしゅう)です」
第一印象は特にどうということはなかった。
父親とよく似た理知的で整った顔立ちをした、礼儀正しい普通の中学生。私たちとの初対面に緊張しているのか、少し構えているようにも見えたが、それも最初のうちだけだった。
二時間ほどの食事会の中で、彼はだんだん打ち解けて、自分の高校受験の話をしたり、冗談を言って笑わせてくれたりもした。
優しくて真面目な男の子。
好感は持てたが、その程度の印象しかなかった。
それから間もなくして母と男性は結婚し、その男の子――柊ちゃんは私の兄になった。
一緒に暮らすようになってからも、最初の印象通り、柊ちゃんは私にも母にもいつも礼儀正しくて優しかった。
父は柊ちゃんと私を分け隔てなく『自分の子供』として扱ってくれたし、柊ちゃんも私のことを妹としてとても可愛がってくれた。そんな柊ちゃんのことを、私も兄として心から慕っていた。もちろん母も、柊ちゃんのことを我が子のように大切に思っていた。
暮らし始める前は、急に他人と家族になるなんてどんな感じだろうと不安に思っていたが、案外すんなりと私たちはお互いを受け入れることが出来た。
柊ちゃんは第一志望の高校に合格すると、無事に合格できたのは母と私のおかげだと言ってとても感謝してくれた。そして、そのお返しとばかりに、今度は私の勉強を毎日のように見てくれた。
頭が良くて、運動も得意で、学校でも近所でも人気者の柊ちゃん。
でも本当は少し不器用で、そんな自分を隠すために時々わざと強がって見せたりする。そんなところさえ、私には彼の持つ魅力の一つに思えた。
内気で人見知りの私とは正反対の私の自慢のお兄ちゃん。
私と柊ちゃんは、血が繋がっていないなんてわざわざ言わなければ分からないくらい、誰が見ても本当に仲の良い兄妹に見えていたに違いない。
それなのに、いつからだろう。
柊ちゃんのことを「お兄ちゃん」と呼ぶことに違和感を覚え始めたのは。