time goes by

□第一章
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 柊ちゃんの親友の井上玲司(いのうえれいし)さんに、会うたびに「柊の小さな可愛い妹」と言われたせいだろうか。それとも、近所のおばさんから「千裕ちゃんは本当にお兄ちゃん子ね」と冷やかされたからだろうか。
 ううん、違う。
 きっと、もっとずっと前から、私は柊ちゃんのことを兄だなんて思っていなかった。
 私は柊ちゃんに恋をしていたのだ。
 けれど、私たちは家族だし兄妹なんだから、そんなこと許されるわけがない。
 私が柊ちゃんのことを好きだなんて知ったら、お父さんもお母さんもすごく怒るに違いない。案の定、私がささやかな意思表示として柊ちゃんのことを「お兄ちゃん」と呼ばなくなっただけで、お母さんはすごく気にして、私にその理由を問い質してきた。だから絶対に秘密にしなければならない。
 何より私は柊ちゃんに嫌われたくない。せっかく妹として可愛がってもらっているのに、私の勝手な思いのせいで、今の関係を壊したくない。
 そう思った。
 だけどその一方で、妹として柊ちゃんの傍にいることに、私は少しずつ疲れてきてしまっていた。
 こんなにも近くにいるのに、本当の彼には決して手が届かない。それがとても辛かった。
 そんな私の苦しい気持ちを、双子の妹である一花だけは随分早くから知っていたようだった。
 母の再婚を機に、別々の町に遠く離れて暮らすようになった私と一花だったけれど、修ちゃんのはからいで一花は定期的に私を訪ねて来てくれるようになっていた。そうして一緒に遊んだりするうちに、一花は柊ちゃんや玲司さん、二人の後輩の晃一(こういち)君ともすっかり仲良しになっていたのだ。
 ある時、いつもの仲間で遊んだ帰り道、一花は急にこんなことを言い出したのだ。
 「あーあ、まさか千裕に先を越されるとは思わなかったな」
 「え?」
 はじめは何のことを言われているのか分からず、ただ首を傾げるばかりだった。
 一花は困ったように笑うと、
 「でもさあ、柊ちゃんは鋭いようでいて案外ニブイところあるよね」
 「……」
 「千裕、きっと苦労するよ。まあ、いざと言う時は、私がいつでも話を聞いてあげる」
 うまく隠しているつもりだったのに、やっぱり一花には分かってしまうものなのね。

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